遠山陽介はすぐに夏目初美と工藤希耀をホテルに送り届け、落ち着かせた。
そして希耀が気づかないうちに、初美に小声で「耀兄さんをしっかり慰めてあげて」と言った。
そして大股で立ち去り、初美の荷物を取りに行った。
初美は部屋に戻り、笑顔で希耀に尋ねた。「ねえ、何か食べたいものある?私はタラ丼が食べたいんだけど、あなたは……ダメよ、何も食べないなんて!……じゃあ私が決めるわ。ビーフステーキと、レッドベルベットケーキはどう?私も少し味見させてもらうけど」
そして迷わずホテルのフロントに電話をかけて注文した。
それから笑顔で希耀に言った。「30分くらいで届くって。この時間を利用して、一緒にお風呂に入らない?」
希耀は彼女が車の中でも、今も、自分を元気づけようとしていることに気づいた。
思わず彼女を抱きしめ、
首筋に何度か顔をすり寄せてから、低い声で言った。「30分じゃ足りないよ。最低でも2時間はかかる。ハニーは旦那の実力を見くびりすぎだ」
初美は彼が冗談を言えるようになったのを見て、心が軽くなった。
笑いながら言った。「あなたがすごいのは知ってるわ。でも本当にお腹が空いてるの。お風呂はやめて、食事が届いて食べ終わってからにしない?そうしたら約束するわ、ちゃんと体力をつけて……えっと、三百回戦でも付き合うから」
希耀の顔にようやく笑みが浮かんだ。「約束だよ。後で後悔しないでね。でも、やっぱり気分が悪いな」
初美は急いで言った。「じゃあ明日、清水寺でお参りして、厄落としをしない?気分転換にもなるし、あなたもずっと私と一緒に過ごせてないし……いや、やっぱり明日は神戸市に帰りましょう。家に着いたら、ゆっくり一緒に過ごせばいいわ」
希耀は彼女が京都市に残ることで、またあの老人の家族に迫られることを心配していることを理解した。
西園寺夫人のあの狂気じみた様子では、最後の最後まで諦めないだろう。
彼は冷ややかに唇を歪めた。「なぜ急いで神戸市に帰る必要がある?京都市が彼らの縄張りだとしても、彼らが好き勝手にできるわけじゃない!」