「お母さん、燃は田舎で育ったから、こういった規則にはこだわらないんだ。僕も子供の頃は田舎育ちで、こんな規則に縛られるのは好きじゃなかった。これからは燃にお嬢様のような規則を求めないでほしい。家族が一緒にいる時に一番大切なのは、楽しく過ごすことだよ」松本志遠は声を柔らかくして、穏やかに諭した。
「三代にわたる良い習慣の積み重ねがあってこそ、本当の貴族の家系が育つのよ。私がこんなに苦労しているのは何のため?松本家の人間が外に出た時に、皆から礼儀正しく、家風が良い、本当の名門だと称賛されるためじゃないの?突然金持ちになっただけの成金とは違うのよ」
「あなたがそう言うなら、もう私は口出ししないわ。あなたたちの好きなように発展させなさい」松本老夫人は心を痛めて言った。
「お母さん、他に管理すべきことはまだあるよ。燃は小さい頃から自由に慣れてきたから、家の規則なんかは彼女に合わない。特別扱いして、燃がこの家で温かさを感じられるようにしないと」
「女の子が武術を学ぶなんて何のためだと思う?安心感がなくて、自分を強くして、他人に虐められないようにしたいからじゃないか?もし私がずっと父親として彼女のそばにいたら、彼女は武術を学ぶだろうか?」
「私はこれほど長い間彼女のそばにいなかったことを、十分に後悔し、申し訳なく思っている。今は燃に対する負い目を埋めたいだけなんだ。どうか、そんなどうでもいいことで、私を板挟みにしないでくれ」松本志遠は悲しげで自責と罪悪感に満ちた表情で言った。
長年の親子関係で、松本老夫人は自分の息子をよく理解していて、彼が自分に引き下がる余地を与えていることを知っていた。
「わかったわ、あなたがそう言うなら、もう彼女のことは構わないわ。あなたが彼女を甘やかせばいい。これから彼女が野放しになって、痛い目に遭っても、私が面倒を見なかったと責めないでね。渡辺ママ、行きましょう」
渡辺ママはすぐに駆け寄り、床に座っていた松本老夫人を助け起こし、橋本燃の横を通り過ぎて階段を上がった。
川劇の変面よりも早く表情を変える松本志遠の顔を見て、橋本燃は心の中で冷笑した。
彼女の母がこの男に心服したのも無理はない。彼のこの厚かましさと柔軟性を見れば、本気で女性に取り入れば、どんな女性も彼の手のひらから逃れられないだろう。