第164章 あなたは私の女

「お前は俺の女だ。俺たちが何をしようと、それは当たり前のことだ。何が悪いんだ」温井時雄の声は掠れ、隠しきれない欲望を含んでいた。

林田笑々の白い腕が蛇のように時雄の背中に這い上がり、動き回った。

「でも、ここでしたくないの。松本さんと食事した後で、ホテルに行くか、あなたのオフィスの休憩室はどう?

あなたの休憩室のベッドはホテルよりも柔らかくて気持ちいいわ。オフィスでしましょう、ね?」

「お前が喜ぶならそれでいい。少し我慢すれば死にはしないさ」時雄は諦めたように言いながら立ち上がった。

ドアの前に立つ松本夕子に気づくと、時雄の顔に優しい笑みが浮かんだ。

「夕子、いつ来たんだ?」時雄は笑々の手を引いて立ち上がり、優しい目で見つめながら言った。「こちらは僕の彼女、林田笑々だ。笑々、こちらは晴子の妹の夕子だ。晴子には約束したんだ。松本家をずっと守ると。彼女がいなくなっても、彼女の家族を自分の家族のように扱うと」

時雄の顔には、現場を押さえられた恥ずかしさは微塵もなかった。まるで夕子が彼と女性の親密な様子を目撃したことが、実の妹に見られたかのように自然で、少しの居心地の悪さもなかった。

「夕子さん、こんにちは。初めてあなたの歌を聴いた時、世界にこんなに素晴らしい、透き通った心動かす声があるなんて、と思いました。ずっとお会いしたかったんです。

今日やっとあなたに会えて、ニュースで見るよりもずっと美しくて可愛らしいですね」笑々は褒め言葉を口にしながらも、夕子を見る笑顔には挑発的な色が混じっていた。

夕子は笑々の、松本晴子に少し似た横顔を見て、淡々と微笑み、視線を時雄に向けた。

「温井お兄さん、私を呼んだのは何か用事があるの?」

「座って食べながら話そう」時雄は笑々を抱きながらテーブルに向かい、そこで初めて夕子の隣、以前はドアに隠れていた視界に、橋本燃が腕を組んで彼を見て笑っているのに気づいた。

時雄の心臓が突然締め付けられ、瞳孔の驚きを必死に抑えた。

「なぜここにいる?」時雄は最短時間で、全身から最も冷たい気配を発し、氷のような冷たい目で燃を見つめた。

「いつからグランドハイアット料亭は温井家のものになったんだ?それともここには温井時雄だけが来れて、私は来てはいけないという規則でもあるのか?」