異能力の継承者とはいえ、異能力は気軽に使えるものではない。
彼女が異虫を召集して自分の意のままに操る度に、大量の精気と血が消耗される。
この期間、彼女は立て続けに何人もの人間を殺してきた。林田笑々に対処する頃には、もう使える異能エネルギーがほとんど残っていなかった。
幸い彼女は笑々がカニアレルギー体質だと突き止めていた。食卓でカニを見たとき、どうやって笑々にカニを食べさせようかと考えていたところ、温井時雄が笑々にカニを勧めてくれた。
笑々がカニを食べた後は、少量の異能力だけで笑々を殺すことができた。
異能力の使用量が足りなかった結果、笑々の遺体に明らかな異変が生じてしまった。
法医学者が検査すれば、笑々の死因が首を絞められての窒息死ではないことがすぐにわかってしまう。
だから彼女は今回、安置所に忍び込んで証拠隠滅をしようとしていたのだ。
松本夕子は時雄が車に乗って去っていくのを見ると、自分も車を走らせて後を追った。
ずっと時雄の後をつけて空港に入り、空港ロビーで迷彩服を着た一団が列を作っているのを目にした。
夕子はサングラスとマスクを着用し、サービスカウンターで問い合わせて同じ便のチケットを購入し、人混みの中に紛れて時雄と同じ飛行機に乗り込んだ。
飛行機が離陸し、窓の外の果てしなく広がる暗い宇宙を眺めながら、夕子の口元に自信に満ちた笑みが浮かんだ。
松本晴子が時雄の命を救い、時雄が長年にわたって彼女に変わらぬ愛情を注いできたことから見ても、彼は非常に義理堅い人間だ。
今回、時雄の戦友の仇を討つのを手伝い、彼の心に10年間秘められた痛みを取り除くことができれば、時雄の心を勝ち取るのは容易なことではないだろうか?
夕子が時雄との素晴らしい未来を思い描いている間、すでに迷彩服に着替えた時雄は同志の案内で最前列のVIP特別室へと向かっていた。
ドアが開くと、聞き覚えのある美しい声が聞こえ、時雄の体はまるで急所を突かれたかのように硬直した。
「高橋将軍、まさか今回の任務を率いるのがあなただとは思いもしませんでした。高橋将軍のような徳の高い方が指揮を執られるなら、今回の任務は必ず完璧に遂行できるでしょう」