温井時雄の軍用機が衝突して遺体も残らなかったという知らせを聞いた時、高橋老夫人は何日も考え抜いた。
最終的には橋本燃に電話して、変異したバッタを食べて彼女の毒を解いたのは温井時雄だったと伝えることにした。
電話の向こうの燃は淡々と、もう知っていると答えた。
再び燃に会った時、彼女の目は灰色に曇っていた。
二人が初めて会った時のような明るい希望の光はなかった。
あの時、二人は雷田震の地下牢に閉じ込められ、生死の境をさまよっていた。
しかし、そんな過酷な環境の中でも、彼女は笑顔で体操を一緒にしていた。
時雄が死んでから、燃の目から希望の光が消えてしまった。
燃は口では頑なに時雄を愛していないと言っていた。
しかし同じ女として、彼女は燃が心の中で時雄をとても愛していることを知っていた。
「お前のお婆さんの言う通りだ。あの温井時雄はもう二年も前に逝ってしまった。確かにお前の命を救ってくれたが、お前に与えた苦しみも多かった。お前にふさわしい人ではなかった。たとえ彼が死んでいなくても、私はお前と彼が一緒になることを許さなかっただろう。
小林さんはいい男だと思うよ。この二年間ずっとお前を気にかけてくれて、何度も私たちにお前と結婚したいという決意を示してくれた。小林さんと結婚してはどうだ?」高橋お爺さんは心配そうに言った。
「お爺さん、お婆さん、私の将来を心配してくれているのはわかっています。でも今は本当にそういうことを考えたくないんです。子供を産み育てるのはとても大変なことです。
まだ心の準備ができていません。もう少し時間をください。本当に好きになれる良い人に出会ったら、その時結婚します。いいですか?」
「しかし、この老いぼれた体ではそんなに長く待てないよ!」高橋お爺さんは嘆息した。
「お爺さん、私が診察したところ、お爺さんもお婆さんも健康そのものです。少なくともあと20年は生きられますよ」燃は笑いながら言った。
「それじゃあ、お前の子供が結婚するのも見られるということか?」高橋お爺さんは目を輝かせて言った。
「もちろんです!」燃はためらうことなく答えた。