橋本燃がやっとのことで全力を振り絞って立ち上がろうとした瞬間、腰に温かい感触が伝わり、体が宙に舞い上がるように回転し、そして硬い胸に頭からぶつかった。
そう、橋本燃の鼻先は鉄のように硬い胸にぶつかったのだ。
まだ体勢を立て直せないうちに、誰かに後ろへ二歩押し戻された。
橋本燃は酸っぱく痛む鼻を押さえながら、涙で霞んだ視界の中に前方の数列に輝く勲章を見た。
顔を上げて確認するまでもなく、それが会場に入るなり女性たちの悲鳴を引き起こした、若くして成功を収めたという一品大将軍だとわかった。
橋本燃は心の中で思わず毒づいた。
余計なお世話をしに来て何がしたいんだ?
大将軍なら、あんな風に人を助けると、慣性の法則で助けられた人が金の勲章だらけの胸に突っ込むことになるって知らないのか?
本来なら彼女は危険なんかなかったのに、彼に助けられたことが最大の危険だった。
誕生日パーティーにこんな服を着てくるなんて、自分の勲章が多いことを人に知らせたいのか?
酸っぱく痛む鼻を押さえながら、心の中で一通り文句を言った後、橋本燃は不満はあれど、親切に手を貸してくれた相手には感謝の言葉を言うべきだと思った。
そこで橋本燃は鼻から手を離し、自分では最も善良で純粋無害だと思う笑顔を浮かべ、ゆっくりと顔を上げて目の前の男性を見た。
「ありが…」
「ありが」と言ったところで、橋本燃の残りの言葉は喉に詰まり、瞳孔が驚きで大きく開いた。自分の目を疑った。
温井時雄!
まさか温井時雄だなんて!
彼は死んでいなかったの?
心の中の衝撃の後、狂喜が湧き上がった。
そして狂喜の後には、怒りが満ちあふれた。
「パン…」橋本燃は素早く容赦なく一発、男の顔に平手打ちをお見舞いした。
「死んだふりして楽しかった?」橋本燃は怒り狂って叫んだ。
橋本燃は男の顔に浮かび上がった五本の赤い指の跡を見つめ、手が止まらずに震えた。
目の前の男から発せられる殺気があまりにも強く、オーラがあまりにも冷たかったからだ。
彼女の記憶の中の温井時雄とは、まったく似ていなかった。
「この狂った女、死にたいのか?」田中黙は素早く手を出し、橋本燃の顎をつかみ、目には冷たく恐ろしい殺気が満ちていた。