第277章 安心して、触れないから

「聞いたでしょう、橋本燃は私と行くんだ。彼女から手を離せ」高橋俊年はそう言いながら橋本燃の手を引こうとした。

田中黙は素早く断固とした動きで高橋俊年を押しのけ、彼を数歩後ろによろめかせた。

「お前たちに任せた!」田中黙はそう言いながら、もがき続ける橋本燃をしっかりと抱きかかえて立ち去った。

「任せてください、ボス!」藤原錦一は高橋俊年を見ながら拳を握りしめた。二年間の武術の修行が、ついに役立つ時が来たのだ。

高橋俊年は藤原錦一と山本煜司の日焼けした肌と、彼らから発せられる強靭なオーラを見て、今や彼らが並外れた武術の腕前を持っていることを悟った。自分は恐らく二人の相手にはならないだろう。

それでも、彼は積極的に拳を振り上げ、錦一に向かって打ち込んだ。

彼の拳が錦一の顔から1センチの距離まで迫ったとき、錦一は素早く身をかわし、すぐさま高橋に反撃を仕掛けた。

煜司は後ろから高橋を攻撃する役目を担い、あっという間に二人は蛇のように高橋に絡みつき、彼を地面に動けなくさせた。

「降ろして!あなたに構われたくない!」橋本燃は車から降りようともがいた。

田中黙は橋本燃をシートに押さえつけ、強引に安全ベルトを締めた。

「もっと暴れるなら、ここで解毒薬を与えるぞ。信じるか?」田中黙は車の外で拘束されている高橋俊年を見ながら言った。「見ての通り、彼は私の部下の相手にもならない」

この犬畜生は本当に厚かましくなった。こんな下品な言葉まで口にするとは。

「ぺっ…」橋本燃は田中黙の邪悪さと比類なき美しさを兼ね備えた顔を見つめながら、マスクを外し、彼の顔に唾を吐きかけた。

田中黙は顔の唾を拭き取るどころか、むしろ挑発的な仕草で舌を伸ばし、唇の周りの唾を舐め取った。

「甘いな」

「厚かましい!」

橋本燃は頭が狂いそうだった!

温井時雄が田中黙に変身した姿は、どうしてこんなに卑劣で、殴りたくなるのだろう!

「安心しろ、俺はお前に手を出さない」田中黙の声は真剣そのものだった。

田中黙が運転席に座るまで、橋本燃はもう逃げようとはしなかった。

一つには、彼女の体が許さなかったから。

二つ目には、彼について行く以外に、より適切な選択肢がないように思えたから。

高橋俊年は橋本燃が最後の抵抗さえせずに、田中黙に車で連れ去られるのを目の当たりにした。