「出て行って、私は自分で髪を乾かして寝るから」橋本燃は追い出そうとした。
「俺が髪を乾かしてやるか、それとも俺の前で自分で乾かすか、どっちかだ!」田中黙は強引に言い放った。
燃は命令されるのが嫌いだったが、相手は強すぎて勝てそうになく、妥協するしかなかった。
ドライヤーを手に取り、のんびりとした動作で髪を乾かし始めた。
彼女は本当に髪を乾かすのが嫌いだった。温風が頭に当たると不快だし、冷風だと時間がかかりすぎる。
だから毎回、髪をベッドの端に垂らして、自然乾燥させながら眠ってしまうのだった。
数分間乾かした後、燃は鏡の中で腕を組んで監視役をしている男を見た。
「もう乾いたから、出て行ってくれる?」
黙は鏡の中の燃を一瞥すると、長い指を伸ばして化粧台のドライヤーを取り、冷風の一番弱い風で燃の髪を乾かし始めた。
「もう髪は乾いたって言ったでしょ、聞こえなかった?」燃は黙の手からドライヤーを奪おうとした。
「おとなしく座っていないと、今夜一人で寝たいという願いは叶わなくなるぞ!」
これは脅しだ。彼に髪を乾かさせないと、一緒に寝るということか?
本当に憎たらしい男だ。
彼がこんな風に生き返るとわかっていたら、この二年間もっと修行していたのに。
実力で圧倒された燃は、明るい笑顔を浮かべた。
「では田中将軍、よろしくお願いします!」
燃は椅子に座り、目を閉じて黙を見ないようにした。黙の長い指が彼女の髪の間を行き来し、時々ちょうど良い力加減で緊張した頭皮をマッサージしてくれた。
元々は目を閉じて黙を見ないようにしていたのは、あの端正な顔を見て余計なことを考えないようにするためだった。
しかし、いつの間にか彼の専門的で心地よいマッサージに、柔らかい椅子の背もたれに寄りかかったまま眠ってしまった。
灯りの下、無防備に眠る燃の寝顔を見つめながら、黙は心の奥底に押し込めていた狂おしいほどの感情を解き放った。
漆黒の瞳には、限りない執着と痴情、そして深い愛おしさが満ちていた。
そっと手を伸ばし、彼女の頬にある二本の淡いピンク色の傷跡に触れると、その瞳には氷河さえ溶かすような優しさが満ちていた。
あの日、もう少し早く着いていれば、彼女の顔は傷つけられなかったのに。
そうすれば彼女の完璧な顔にこの二本の傷跡は残らなかったのに。