第354章 全財産を差し出す

「変な想像はしないで。彼女はあなたの体内の毒を'解'いてくれて、私たちが今こうして幸せに一緒にいられるようにしてくれたの。ただ感謝したいだけよ」田中黙は真面目な表情で言った。

黙は軽く笑い、優しい声で言った。「ネックレスを付けてあげるよ」

「うん!」燃は顔を上げ、黙にネックレスを首に付けてもらった。

ネックレスを付けた後、燃はベッドに座り、黙に向き合った。

「似合う?」

「似合うよ。ただ、もう一つ花を添えるものが必要だな!」黙はそう言いながらスーツケースを持ち上げると、様々な色の証書が燃の前に落ちた。黙は深い眼差しで燃の顔を見つめた。「うん、これらがあると、確かにもっと素敵になったね」

階下で書類の入った封筒を黙の全財産だと思い込んでいたことを思い出し、燃は口元に気まずい笑みを浮かべた。

確かに彼の実力を甘く見すぎていた。

これだけの所有権証書があるなんて、スーツケースに入れなければならないほど多いとは。

「これは何のつもり?」燃はわざと分からないふりをして尋ねた。

昨日は何気なく言っただけだったのに、今日彼は不動産証書、車の登録証、預金通帳、銀行カードなど、あらゆる証書を持ってきたのだ。

「これらは旦那が長年かけて築き上げた財産だ。今、全部君に渡す。好きなように使っていいよ!」

「私に渡しても意味ないわ。使えないもの!」燃は冷たく言い、少しも感動していないふりをした。

家や車は彼の名義の固定資産で、彼女が売って現金化できるわけではない。

「君のものかどうか、見てみないとわからないだろう?」黙は愛情たっぷりの笑顔で言った。

氷河をも溶かしそうな彼の美しい笑顔を見て、燃は目を見開き、何かに気づいたようだった。

手に取った不動産証書には確かに自分の名前があり、しかもその家は安城の物件だった。

続けて、燃は他の所有権証書も開いて確認した。数十枚の所有権証書には彼女と黙の名前があるか、彼女一人の名前だけがあった。

彼女と黙が共同所有している物件は指で数えられるほどしかなかったが、彼女一人の名義の所有権証書は数十枚あり、北虹国の異なる都市や海外の物件だった。

これらの所有権証書の購入時期はまちまちで、すべて2年前に彼女の名義に移されていた。

おそらく2年前、彼は自分が死ぬと思い、財産をすべて彼女に与えたのだろう。