秘書は一瞬固まり、理解した。
これは勝山家の養女を完全に見捨てるということだ。
江口漠遠は目を閉じた。「用がなければ、下がっていいよ」
「江口さん、どうぞお休みください」秘書はドアを静かに閉めた。
外に出ると、彼は首を振った。
以前、江口さんと一緒に清水県に視察に行ったとき、勝山家の養女はまだ純朴だった。今は?
やはり大都会の華やかな誘惑に負けて、落ち着きがなくなり、出世しか考えていないようだ。
江口さんが見抜いてよかった。
秘書は少し考えてから、給湯室に行き、携帯を取り出して電話をかけた。「露美さん……」
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数日の療養で、温井風眠の体調はかなり良くなっていた。
しかし、長年の病気は一朝一夕で治るものではない。
最初の薬はすでに使い切ったので、子衿は特別に新鮮な薬材を注文した。
東京は山から離れているため、薬材はすべて他の地域から取り寄せていた。
彼女が必要としていたのはすべて最高級の薬材で、数十キロで数十万円もかかった。
待っている間、子衿は隣のスイーツショップに入り、マンゴー餅団子を一つ注文した。
彼女は新しく買ったスマートフォンを取り出し、画面を点けると、様々なアプリが表示された。すべて彼女が遊ぶつもりのものだった。
新しい技術の最大の利点は、彼女が退屈しないことだった。
子衿はそのうちの一つのアプリを開き、ウサギの耳がついた自分を見つめながら、考え込んだ。
これは「自撮り」と呼ばれるものらしい。なかなか面白そうだ。
彼女は手元でいじくりまわし、フィルターと装飾を選んでシャッターを押した。
「カシャッ——」
その鮮やかな音に、向かいのテーブルに座っていた人が顔を上げた。
それは日よけ帽とサングラスをかけた少女で、かなり顔を隠していた。
彼女は眉をひそめ、不機嫌そうに言った。「どうして彼女たちはここまで追いかけてくるの?写真を削除させて。私は黒い写真でトレンド入りなんてしたくないわ」
アシスタントは理解し、すぐに前に進み出た。「写真を削除してください。六条さんはファンに撮影されるのを好みません、わかりますね?」
「どうしても撮りたいなら、訴えることもできますよ」
声は大きくなかったが、スイーツショップの客全員に聞こえた。
彼らは皆振り向き、好奇心を示した。