鈴木知晩は答えず、もう一度尋ねた。「小林先輩、まずあなたの意見を聞かせてください。この字はどうですか?」
小林玉子はしばらく黙考してから、首を振った。「何とも言えないな。」
知晩は驚いた。「どうして何とも言えないんですか?」
「この字は一見気ままに書かれているように見えるけど、書いた人の基礎力はとても強い。」玉子は巻物を手に取り、その中の一句を指さした。「ここを見て、この点画、構造、レイアウト、絶妙と言えるほどだ。」
「それに明らかに、書いた人は一気に休まず書き上げている。一度も中断していない。」
彼は軽くため息をついた。「それでもこれほど完璧に書けるなんて、本当にすごい。」
知晩は察した。「それじゃあ、この作品は高校生には書けないということですね?」
「高校生?」玉子は笑った。「高校生どころか、先生でさえできるかどうかわからないよ。」
「知晩、お前も先生について十数年学んできたのに、こんな判断力もないのか?」
知晩もそう思っていた。彼女は微笑んだ。「小林先輩、私は見識が浅いので、この字がどの流派か分かりますか?」
書道の大家はそれぞれ独自のスタイルを持っており、特に独特なものは他人が模倣できないものだ。
「うーん」玉子は眉をひそめ、もう一度丁寧に見た。「これは行楷で書かれていて、基礎力も深いが、スタイルはそれほど明確ではない。江藤厚志先生の作品だろう。」
そう言いながら、彼は書斎の棚から別の巻物を取り出して開いた。
「見てごらん、これは江藤先生の作品だ。先生からもらったものだ。」
知晩はそれを見て、唇の端の笑みを必死に抑えた。「確かに似ていますね。」
実際はそれほど似ているわけではなく、少なくとも彼女から見れば、勝山子衿が不正に使ったこの字は、江藤のものより上手だった。
知晩は心の中で計算し、また言った。「小林先輩、今から江藤先生のところへ行けますか?」
玉子は少し考えた。「いいだろう。」
彼はまず電話をかけ、江藤が家にいることを確認してから、車で知晩を江藤の住まいへ連れて行った。
この時、江藤は庭で日向ぼっこをしていた。
彼は五十歳を過ぎ、芸術界での地位も低くなかった。
ただ、ここ数年、江藤は筆を取っておらず、新作もなかった。理由は不明だった。
「江藤先生。」玉子は挨拶した。「こちらは私の後輩の鈴木知晩です。」