封筒と中の便箋がどれほど防水加工されていても、紙でできている以上は限界がある。
暖炉に投げ入れられるやいなや、たちまち灰となり、かけらすら残らなかった。
だが、一通の手紙だけは例外だった。
最後に投げ入れられたその手紙は、なんと無事なままだった。
封筒の周りは炎に包まれているのに、端すら焦げることはなかった。
この光景を目にした執事は一瞬呆然とし、すぐに何かに気づいたように、急いで道具を持ってきて炉の火を消した。
そして手袋をはめ、慎重にその手紙を取り出した。
執事は近づいて見てみると、この封筒が無傷なだけでなく、埃一つ付いていないことに気づき、困惑と恐怖を覚えた。
彼はローラン城の外周の管理を担当しており、毎日数十通の従来型の手紙を受け取っていた。
これらの手紙はほとんどが外部の熱狂的なファンから送られてきたもので、ローラン家族のメンバーたちは数回見た後、もう見なくなった。
そして今後このような手紙が届いたら、すべて燃やしてしまえばいいと言われていた。
本当に重要な事は、こんな古風な通信方法では伝えられないだろう。
執事は毎日手紙を燃やすことが習慣となっていた。
そして今日のような出来事は、彼にとって初めての経験だった。
彼は紙が火で燃えないなんて話を聞いたことがなかった。
もし何か有毒なものだったらどうしよう?
屋敷の若様や令嬢たちに害が及んだら大変だ。
執事がこの手紙を上に報告すべきか迷っているとき、城の一階のホールから足音が聞こえてきた。
同時に、彼の背後から声が響いた。「その手紙を私に渡しなさい。」
執事は思考から急に我に返り、振り向くと、見知らぬ人物がいた。
しかし彼は気づいた。来訪者の袖口には金色のアイリスが刺繍されていた。
金色のアイリスはローラン銀行のシンボルだ。
このようなシンボルを身につけているのは、城内の中核的な使用人だけだった。
執事は急いで手にした手紙を差し出した。
「よかった」若い使用人は手紙を受け取り、軽くため息をついた。「あなたたちがまだ手紙を燃やすと思って、特別にナノ素材を使ったんだ。」
執事は困惑と恐怖を感じながら、探りを入れた。「それは、つまり…」
「あなたには関係ないことだ」若い使用人は手を振った。「自分の仕事に戻りなさい。」