あのオークションは、松本家と他の数家族が単に場を提供しただけで、真の主催者とは言えなかった。
たとえ骨董品があったとしても、松本鶴卿はそれほど気にかけなかっただろう。
彼は一心に隠居生活を送り、松本家を譲り渡して自分は自由に生きることだけを望んでいた。
しかし勝山子衿がいたため、松本承は特に注目していた。
だから彼もオークションで起きたことを知っていた。
このような事で、承は当然鶴卿を煩わせようとは思わなかった。
しかし彼は確信していた。子衿の一言で、松本沈舟が松本家を継ぐ可能性はなくなるだろうと。
だから承は尋ねてみたのだ。
子衿はお茶を飲んでいて、聞かれても動作を止めなかった。「誰?」
承は「……」
彼の考えすぎだった。
勝山さんの目には、鶴卿でさえ時にはお菓子ほど重要ではないのだ。
まして沈舟なら尚更だ。
彼女がどうして重要でない人を気にかけるだろうか?
これはかなり悲惨だ。
承は咳払いをして、真剣に言った。「誰でもありません。勝山さん、お菓子を開けるのを手伝いましょうか。」
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個室内。
伊藤雲深は入ると、ドアを閉めた。
松本鶴卿がこの茶館を選んだのも、ここの防音効果が良いからだった。
彼は足を組んで座り、考えてから、しばらくして口を開いた。「数ヶ月前に東京に行った時、お前の祖父の体調が良さそうだったが、勝山が治したのか?」
「ええ」雲深は淡々と答えた。「本来なら、私はもう諦めるつもりだった。」
伊藤のご隠居を諦めるのではなく、自分自身を諦めるつもりだった。
「よかった」鶴卿はほっとした。「お前の祖父は私の部下だったからな。彼が病に苦しむのを見るのは辛かった。」
伊藤のご隠居と彼の状況は異なる。
彼は心臓からずれた位置に銃弾を受け、それが一連の病の原因となった。
伊藤のご隠居も戦場で怪我をしたが、致命的なものではなく、年を取って普通の人より体が不自由になっただけだった。
伊藤のご隠居を生きる屍にしたのは、あまりにも強力な毒素だった。
鶴卿は知っていた。雲深が古医学界の古医、それも最も優れた数人に診てもらったことを。
以前彼を治療していた夢野さんでさえ、この数人と比べることはできなかった。
結局、この数人の年齢は彼よりも上の者もおり、経験と知識は比べものにならなかった。