254 正体を現す、真の神医の名手!【1更】

松本夫人は松本雨香が筆を取るのを見て、ようやく胸をなでおろした。

彼女も実は賭けに出ていた。

もし雨香が署名しなければ、彼女にも強制する手段はなかった。

松本夫人はもともと雨香と取引するつもりはなかったが、松本唯楓があまりにも傲慢だった。

彼は病死してもいいと言うほど、彼女の条件を受け入れようとしなかった。

しかし雨香は違う。

彼女は今年ちょうど中学校を卒業したばかりで、高校一年生になったところだ。

まだ16歳にもならない少女が、どんなに優秀でも、精神的にはまだ未熟だ。

唯楓は彼女の実の兄で、このような生死の境目にあって、雨香がここに立っていられるだけでも精神力が強いと言える。

松本夫人が恐れていたのは、権力と家族愛の間で、雨香が前者を選ぶことだった。

幸いにもそうではなかった。

松本夫人は冷ややかに傍観し、雨香に座るよう促すこともなく、ただ彼女が署名するのを見ていた。

この書類に署名すれば、法的効力が生じる。

そして唯楓の命も彼女の手の中にあるので、雨香が後で約束を破ることを恐れる必要はなかった。

雨香が「松」の字を書き終えたとき、ICUのドアが突然開いた。

看護師が慌てて出てきた。「松本唯楓さんのご家族はどちらですか?彼は目を覚ましました。」

雨香の手が震え、興奮してペンを投げ出し、背中のリュックサックも気にせず、すぐに走り出した。

不意を突かれた松本夫人は、顔にインクを浴びせられた。

「大変よ、姉さん!」香椎慧珠は表情を変え、「唯楓が目覚めたら、あの心肺科の医者を呼んでも何の意味があるの?」

松本夫人は冷静に顔のインクをティッシュで拭き取りながら、「あなたは彼のことを知らないのよ。彼は目覚めたかもしれないけど、死からはそう遠くない。」

「当時、松本家が招いた何人もの医者たちは皆、唯楓が血を吐いて気を失ったら、もう完全に手の施しようがないと言っていた。」

このことを雨香はまだ知らなかった。

唯楓は自分の体の本当の状態を彼女に話したことがなく、いつも良いことだけを伝え、悪いことは伝えなかった。

松本夫人ももちろん言うつもりはなかった。どうあれ、まず雨香の署名を手に入れなければならなかった。

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病室内。

唯楓が医師と看護師によってベッドごと運ばれた後、雨香も一緒についていった。