295 完全に伊藤雲深の実力を知らない【2更】

その時、根岸家では。

根岸老爺がソファーで新聞を読んでいると、ドアの音がして顔を上げた。

見てみると、意外な来訪者だった。

根岸亦が黒いスーツを着て、玉のような姿で、風のように凛々しく立っていた。

「おや?」根岸老爺は老眼鏡を押し上げながら言った。「不孝者め、どうして戻ってきた?」

亦が一字隊に加入してからは、根岸家を離れていた。

老爺でさえ、何年も一度会えるかどうかだった。

「雲深のお祖父さんが亡くなった」亦は眉をひそめた。すでにこの呼び方に慣れていた。「荷物を取りに戻ってきたんだ。東京へ行かなければならない」

伊藤のご隠居の病気が突然良くなり、そして今、突然この世を去った。

亦は軽く頷くと、最速で荷物をまとめ、ドアに向かった。

「待て!」根岸老爺は立ち上がり、厳しい表情で言った。「私も一緒に行く」

実は根岸老爺は伊藤家と接触したことがなく、伊藤のご隠居とも知り合いではなかった。

しかし亦のおかげで、伊藤雲深のことは知っていた。

雲深と亦は兄弟同然であり、亦の祖父として、見て見ぬふりはできなかった。

亦は足を止めた。「わかった」

今回、東京は本当に混乱していた。

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葬儀の準備は速やかに進み、伊藤家には人手も多かった。

午後には、伊藤のご隠居はすでに霊堂に安置されていた。

伊藤家には専用の霊堂があり、これまで年長者が亡くなると、子孫たちはここで五日間通夜を行っていた。

棺も三年以上前から用意されており、上質の花梨の木で作られていた。

すでに分家した数軒を除いて、伊藤家の全員が戻ってきたが、基本的にはあまり感情を表に出していなかった。

「兄さん、遺言状は?」江口さんは巨大な棺を一瞥し、こっそりと伊藤明城の側に寄った。「父は御香坊を誰に与えたんだ?」

実際、彼はただ尋ねただけで、より多くの株式と不動産を分けてもらいたかっただけだ。御香坊がどうあっても彼のものになることはないだろう。

明城の表情は沈んだ。彼は何も言わず、棺の前に跪いている男を見つめるだけだった。

江口さんは彼の視線を追い、表情を変えた。「本当にあいつに渡すのか?」

御香坊を手に入れる資格が雲深にあるのか?

「六時間も跪いている」伊藤一塵は冷ややかに言った。「お祖父さんはもういないのに、誰に見せているんだ」