伊藤のご隠居が亡くなると、雲深を守る人はもういなくなった。
実際、雲深が伊藤家に滞在した時間はそれほど長くなかった。
雲深は5歳の時に帝都へ行き、そこでほぼ10年間生活していた。
14歳の時、彼はようやく伊藤のご隠居によって東京に連れ戻された。
そして、東京一の遊び人という称号を得ることになった。
18歳の年、雲深は帝都へ行ったが、東京では彼が夢野家とトラブルを起こしたという噂が広まった。
そのため伊藤のご隠居は彼を急遽O大陸へ送り、3年半から4年近く経って、雲深は再び戻ってきた。
計算すると、雲深は伊藤家に10年も満たない期間しか住んでいなかった。
しかし伊藤明城は依然として雲深を目障りに思っていた。伊藤のご隠居が彼をあまりにも重視していたからだ。
遊び人の若旦那で、顔だけが取り柄で、何をやっても駄目だった。
雲深に何の資格があるというのか?
伊藤のご隠居がこうして亡くなると、明城はかえって気が楽になった気がした。彼の心にのしかかっていた重い石も落ちたような気分だった。
他の祖父母世代とは違い、伊藤のご隠居は伊藤家での威厳が非常に高かった。
伊藤家が東京で今日の地位を得られたのも、伊藤のご隠居がいたからこそだった。
明城が意外だったのは、伊藤のご隠居が遺言を隠さず、堂々と机の上に置いていたことだった。
伊藤夫人もそれを見つけた。「明城、ここよ」
明城は急いで近づき、机の上の遺言書を手に取って読み始めた。
伊藤のご隠居が御香坊と伊藤集団の株式15%、そして伊藤家の帝都にあるすべての不動産を雲深に残していることを知った時、明城の額と首の血管が激しく脈打った。
彼は激怒し、手にしていた遺言書をすぐに引き裂いた。
夫人は彼のこの行動を見て、何が起きたのか理解した。
彼女は口を開いた。「御香坊……ご隠居は本当に御香坊を彼に与えたの?」
二人ともこの可能性を予想していたが、実際に遺言書に書かれているのを見ると、やはり受け入れがたかった。
御香坊だぞ!
伊藤家の礎!
それが遊び人に分け与えられれば、数日もしないうちに使い果たされてしまうだろう。
明城は深く息を吸った。「まずは葬儀の準備だ。父は85歳だった。これは喜ばしい死、良いことだ。大師を招き、葬儀の日程を決め、各名家を招待しなければならない」