第14章 お爺さんは嫁に会いたがっている

「どうしてこんなに電話に出るのが遅いんだ。携帯を家に忘れてきた。すぐに会社に持ってきてくれ！」電話の向こうから斎藤遥の馴染みのある声が聞こえた。落ち着いた低音で淡々としていて、聞いていて心地よい声だった。しかし、その当然のような物言いには歯ぎしりしたくなる！

佐藤若菜は元々4Sショップに車を取りに行き、それから橘美織と食事に行く予定だった。でも急いでいけば間に合うだろう。そこで、人に指図するのが習慣になっているこの坊ちゃんとは争わず、素早く尋ね返した。「携帯はどこにありますか？」

「たぶん浴室か、ベッドの上だ」遥は低い声で言った。

「わかりました。すぐに持っていきます」若菜は返事をして電話を切り、彼の携帯を探しに寝室へ向かった。

案の定、枕元に遥の携帯を見つけた。手に取って見てみると、意外なことに、彼の携帯の壁紙は自撮り写真だった。しかし、この写真は普段の彼が見せる冷たさや深みとはまったく異なっていた。少し濡れた髪が乱れ、45度の撮影角度が彫刻のような横顔をより立体的に引き立て、傲慢で奔放な眼差しには、天下を見下ろす傲気と自由さが宿っていた！

おそらく、これこそが本当の遥なのだろう！

携帯の写真を見ながら、若菜はほんの一瞬、我を忘れた——この男はいったいどれほど深く自分を隠しているのだろう？

若菜はチェック柄のキャミソールワンピースに薄いピンク色の半袖カーディガンを羽織った。フォーマル過ぎず、かといってカジュアル過ぎない、彼の会社に行くのにちょうど良い装いだった。

斎藤氏のオフィスビルは市内で最も繁華な地域にあり、若菜はタクシーを降りるとすぐに斎藤ビルだった。

アパレル業界で誰もが仰ぎ見るこの企業のオフィスビルは高層ではあるものの、全体的な建築様式は落ち着いていて控えめで、高層ビルが立ち並ぶオフィス街の中では特に目立つものではなかった！

しかし彼女は、この企業に足を踏み入れることになるとは思ってもみなかった！なぜなら、彼女にとって、この企業はあまりにも大きく、手の届かない存在だったからだ。

そして彼女はさらに、今日このような立場で斎藤氏に足を踏み入れることになるとは、まったく想像していなかった！

「いらっしゃいませ、どちらの方をお探しですか？」彼女が中に入ると、受付の美人が立ち上がり、標準的な職業スマイルを浮かべて親切に尋ねてきた——彼女の胸の名札には「総務部 山田静」と書かれていた。

「山田さん、こんにちは。佐藤若菜と申します。斎藤遥を探しています。お手数ですが、取り次いでいただけますか？」若菜も丁寧に言った。

その美人は言葉を聞いて少し眉をひそめた——会社では、誰も斎藤部長をファーストネームで呼ぶ人はいなかった！

しかし、彼女は若菜と遥の関係を確信できなかったので、54階の部長室に電話をかけた。

若菜はこの機会に、斎藤氏のオフィスロビーの装飾をじっくりと観察した。彼らの企業文化への取り組みは本当に素晴らしく、エントランスホール全体が彼のビル全体と同様に——控えめながらも誇り高い斎藤スタイルに満ちていた！

受付の背後にある2階分の高さの壁には、創業者の写真が飾られていた。それは若菜が朝資料フォルダで見た、遥の祖父である斎藤峰雄だった！そして斎藤氏の現在の当主である斎藤蓮と遥兄弟三人の写真が、峰雄の写真の右下に小さめのサイズで一列に並んでいた！

受付台の左側には、床から台面まで、白い大理石で作られた半人の高さの石板があり、そこには会社の文化的スローガンが刻まれ、荘厳で重厚な印象を与えていた！

ホールの一角には小さな展示エリアがあり、年代順に会社の毎年のクラシック製品が展示されていた。そして最近5年間のクラシック製品の紹介では、デザイナーの欄に遥の名前がはっきりと記されていた！

これに若菜は彼に対して、思わず見直さざるを得なかった——彼が単なる見かけ倒しのお坊ちゃんではないことは知っていたが、彼の能力がこれほど高いとは知らなかった！

毎年下着業界で流行の波を巻き起こす斎藤氏のデザインコンセプトが、この男の手によるものだったとは！

「男性が女性の仕事をすると、必ず女性よりも優れた仕事をする」という言葉があるが、今見ると、この言葉は遥において証明されたようだ！

「佐藤さん、斎藤部長がこちらでお待ちくださいとのことです。すぐに下りてくるそうです！どうぞこちらにお掛けください。コーヒーをお持ちします」若菜が見入っていると、静が急いで戻ってきて、丁寧に言った。その口調には少しへつらうような響きもあった。

彼女が会社に来て1年余り、三男坊は美女に人気があったが、正式な彼女は佐藤さんだけのようで、また彼が直接下りてきて客を迎えることは決してなかった。名目上の彼女である佐藤さんが来ても、白石秘書が下りて迎えるだけだった！

この女性がどんな貴客なのか分からないが、三男坊が自ら下りて迎えるとは、受付としては慎重に対応せざるを得なかった。

若菜は手首を上げて時間を確認した。すでに12時半だった。これ以上待っていると美織との約束に間に合わなくなる。そこで眉をひそめ、静に言った。「急いでいるので、封筒をいただけますか？彼の携帯をそこに入れておきますので、後で彼に渡してください」

静はまるで驚いたかのように、手を振りながら急いで言った。「佐藤さん、斎藤部長は専用エレベーターを使っていますので、すぐに下りてきます。もう少しお待ちください！」冗談じゃない、三男坊の私物の携帯なんて、彼女が受け取ったら、三男坊が怒らなくても、会社の女性陣に食い殺されてしまう！

斎藤氏の三人の若旦那のうち、長男は生産を担当し、几帳面で堅物だが、すでに結婚しているため、あまり噂の的にはならなかった。

次男はマーケティングと市場を担当し、活発で先進的な人物で、社長と同じ型から出てきたかのように格好良く、会社の販売の命運を握っており、社長の次に最も実権を持つ人物だった！もちろん、最も重要なのは、今でも独身だということ！そのため、会社の女性たちが密かに好意を寄せる対象でもあった！

三男は商品を担当し、派手でだらしない性格で、容姿は社長と夫人の長所を兼ね備え、スター的な雰囲気を持っていた！会社の女性社員たちは彼に好意を寄せるだけでなく、まるでスターを追いかけるように彼を自分のアイドルや夢の対象にしていた！

だから、彼女のような小さな受付係が三男坊の私物の携帯を預かるなんて、死にたいのかと思われるだろう！

彼女が手を振っていると、若菜はすでにエレベーターから歩いてくる遥を見ていた。「オフィスに来てくれ。午後は一緒に買い物に行こう」遥は若菜に向かって足早に歩きながら、彼女の意見も聞かずに一方的に言った。

若菜は手にした携帯を遥に渡し、相談するような口調で言った。「友達と車を返す約束があって、午後は4Sショップに車を取りに行かなきゃいけないんです。5時半にあなたのオフィスに行くのはどうですか？」

遥は明らかに、仕事をしていない彼女がこんなにスケジュールを詰めていることを予想していなかった。しかし、彼が彼女を残したのは、主に斎藤お爺さんが今日会社にいて、彼が急遽連れてきたこの嫁を事前に会わせたいと思っていたからだった！

だから、当然彼女を外でぐずぐずさせて5時半に来させるわけにはいかず、直接彼女に告げた。「父が今日会社にいて、午後オフィスで君に会いたがっている！」