第26章 恋に落ちるなんてありえない

「飛雨、飛雨どうしたの？」佐藤若菜が「斎藤遥」という名前を口にした瞬間、飛雨の八卦好きな顔が曇るのに気づいた。そして彼女がファッション業界の斎藤氏について話し始めると、飛雨の顔は真っ青になり、座ったまま今にも倒れそうな様子で悲惨な状態だった。

「もしかして飛雨は斎藤遥を知っているの？あるいは斎藤家の誰かを？天雄と斎藤家に何か関係があるの？」若菜はそう考えざるを得なかった！なぜなら、飛雨はいつも自分が冷静で、落ち着いていて、賢明だと言っていたが、それは自慢ではなかった。若菜は知っていた、彼女は確かにそういう女性だった。自分と一緒に羽目を外して遊ぶ時以外は、女性らしからぬほど冷静で理性的だった！

若菜が彼女を知る限り、彼女が取り乱し、悲惨な姿を見せたのはたった一度だけだった——その時、彼女は友人の結婚式に出席し、翌朝早く魂を失ったように帰ってきて、その後三日間惨めな様子で呆然としていた。その時の表情は今と同じだった！

二ヶ月後、彼女は自分に妊娠したことを告げた！その時でさえ、彼女の表情は落ち着いていて、波一つ立てなかった！

「あなたは斎藤家の誰かを知っているの？天雄と斎藤家に関係があるの？」若菜は飛雨の手を掴み、緊張した様子で尋ねた。

彼女は飛雨に宴会に行って帰らなかったあの夜に何が起きたのか一度も尋ねなかった。飛雨が話したくないのなら、忘れてしまえばいい。彼女は天雄のお父さんが誰なのか尋ねたことがなかった。彼らは、天雄には二人のママがいれば十分で、余計な父親は必要ないと思っていた。しかし今、明らかにその男性は飛雨にとって、ずっと心の奥底に置かれていて、決して忘れられていなかった！

「天雄のお父さんは斎藤延彦よ」彼女の静かな一言に、若菜は目を丸くした。

「若菜、一つ約束してほしいことがあるの」橘美織は真剣な表情で若菜に言った。

「彼は知らないの？」美織の様子を見て、若菜はその結果を理解した——延彦は知らないだけでなく、飛雨は彼に知らせるつもりもなかった！

美織の顔に一瞬はかない笑みが浮かび、静かに言った。「あれは偶然だったの。今の生活に何の変化も欲しくないし、天雄の生活にも何の変化も起こってほしくないの」

若菜は再び落ち着きを取り戻した飛雨の顔と目に宿る決意を見て、ゆっくりと言った。「約束するわ。彼らには一言も言わないわ」