第172章 紅顔は知己にあらず(2)

また彼女がどう反応するか見てみたいのだろう。妻として大らかな態度を装うのか、それとも泥棒女のように騒ぎ立てるのか——どちらにしても、明石葵は損をしないはずだ!

ふん、今どきの女の子は本当にパワフルね。まだ愛人でもないのに、もう人の妻に挑戦しようとしているなんて!

佐藤若菜は目を細め、彼女に微笑みかけて軽く頷き、挨拶を交わした。

何か言おうとした時、腕に力が加わり、頭上から斎藤遥の低い声が聞こえた。「何か用があれば電話してくれ。今は話す時間がないんだ」

「斎藤部長、これは?」明石は遥の不機嫌そうな表情を見て、自分の出現がこの夫婦に影響を与えていることを悟った。

そこで彼女はわざと大げさに澄んだ目を見開き、遥と若菜の顔を交互に見つめ、無邪気で信じられないという表情を作った。

若菜は遥に向き直って言った。「用事があるなら会社まで送らなくていいわ。私一人で行けるから!あなたは先に行って」

この言葉は、葵には見栄を張った寛大さと偽りの賢さに聞こえた。こんな世俗的な女が、才能あふれ、優れた趣味を持つ遥にふさわしいはずがない!

心の中で遥がもったいないと思いながら、彼女は遥を見る目をますます輝かせた。

一方、遥にとって若菜の言葉は警告に聞こえた。新会社の件はまだ斎藤氏の人間に知られるべきではなく、話があるなら外で話すようにという意味だと。

遥は若菜に軽く返事をして、彼女の意図を理解したことを示した。

それから葵を見て淡々と言った。「私はもう斎藤氏を離れたから、仕事のことで力になれることはないと思う」

確かに、遥は彼女の才能を高く評価し、彼女が密かに抱いている気持ちも知っていた。

しかし以前は一緒に働き、無害な冗談を言い合い、わずかな親密さが彼女のやる気を高めるのに役立っていた。職場では「感情投資」と呼ばれるもので、自分の生活に影響がない限り、彼は気にしなかった。

だが今は違う。妻がいて家庭がある今、このあいまいな関係は整理する必要があった。それに、若菜ははっきりと「好きじゃない」と言っていた。

だから、才能は才能、評価は評価として、彼は彼女に空想を続ける機会を与えるつもりはなかった。言外の意味を込めた返答は、彼女の賢さなら理解できるはずだ。

若菜も理解できた。