第275章 今度は彼が主導権を握る(1)

二つの靴を履き替えて立ち上がった時、彼は気づいた。自分がずっと話していたのに、佐藤若菜は一言も発していなかったことに。

「どうしたの？うるさいと思った？」斎藤遥は彼女の目が赤くなっているのを見て、手を伸ばして彼女の頬を軽くたたき、からかった。

「遥、会いたかった！」若菜は両腕を伸ばして遥の首に巻き付け、自分のあごを彼の肩に乗せ、涙を堪えながらそっと言った。

一人でいる時は、どんなに困難なことも普通のことに思える。

でも彼の思いやりの下では、突然、毎日当たり前にしていた動作さえも困難で辛いものに感じられた。

「泣かないで！息子に笑われるよ」遥は瞳を輝かせながら、震える彼女の背中をそっと叩き、耳元で優しく慰めた。

「若菜、ついに、あなたも一人で孤独に誰かを思い続ける味を知ったのかな？」

「若菜、君が別れを選んだ理由は理解しているけど、これからの日々で、問題を解決するために別れるという選択だけをしないでほしい。だから、離れている間に、一緒に成長して、共に問題に向き合う方法を学ぼう」遥は彼女をなだめながら、自分の将来の幸せのために、彼女を引き止めたいという思いを必死に抑えていた。

彼にとって、それは辛抱するのが非常に難しいことだった！

彼は知らなかった。もし彼女がもう少し柔らかくなるか、あるいは彼女が一言「遥、あなたから離れたくない」と言えば、おそらく彼がこの半年間苦労して築いてきた心理的な準備はすべて一瞬で崩れ去っていただろう。

幸いなことに、彼女はいつも自分が長く弱さを見せることを許さなかった！

だから、しばらくすると、彼女はいつもの状態に戻り、彼を抱きしめていた手をそっと離し、鼻をぐっとすすり、茶目っ気たっぷりに彼に言った。「あなたの肩を少し借りても構わないでしょう？」

遥は心の中で長いため息をついた。彼女がいつもこんなに強いことに感謝した。もう少し長く自分の腕の中にいたら、きっと彼女を引き止める言葉を口にしてしまっていただろう。

よかった！

遥はドアを開け、彼女を先に出し、ドアを閉めた後、小声で彼女に言った。「全然構わないよ。他の時に借りたくなったら、電話してくれれば飛んでいくから」

「ふーん」若菜は一人で前を歩きながら、軽く鼻歌を歌い、彼に自分の弱さや感情的な面を見せたくなかった。