名古屋で最も単価の高い別荘の内部。
林悠(はやし ゆう)は、ほんのりと顔を赤らめながら鏡の前に立っていた。今朝は珍しく早起きして、思い切って口紅まで塗ってみた。
昨夜、夫・冷川宴(ひえかわ うたげ)との間にあったあれこれを思い出し、林悠の顔には思わず甘い笑みが浮かんでいた。
結婚して一年、ようやく二人は本当の夫婦となった。
どうやら、自分はようやく彼の心をあたためることができたらしい。
悠は内心で喜びながら、クローゼットから三着のドレスを取り出し、鏡の前で見比べた。宴が目を覚ましたとき、少しでも美しい自分を見せたかったのだ。
一着目は水色のワンピース。学生時代に買ったもので、今の自分には少し幼すぎる気がした。
もう一着は白いミニスカート。買ってから長いこと仕舞ったままで、襟元はすっかり黄ばんでいた。
最後の一着は、比較的フォーマルな黒のオフィスドレス。卒業の頃、就職活動用に買ったものだった。
少し迷った末に、彼女は水色のドレスを手に取った。
鏡に映る、少し幼さの残るセーラーカラーを見つめながら、彼女はまた決心がつかなかった。そんな時、寝室から物音がした。宴が目を覚ましたらしい。
悠は心が躍り、着替える間も惜しんで慌てて寝室に駆け込み、恥ずかしそうに声をかけた。「宴、起きたの?」
宴は声に反応して彼女を見つめた。女性の眉間に浮かぶ恥じらいの表情に気づき、ようやく昨夜の出来事を理解したのだった。
彼は激怒し、顔色を真っ暗に染めて言った。「悠、よくもそんなことを…」
「宴…」悠は戸惑いながらつぶやいた。明らかに、今の夫は昨夜の彼とはまるで別人だった。
男の冷たい声が再び響いた。「一体誰が、お前にそんな勇気を与えたんだ?何度も何度も俺を計算に入れて?」
「違うわ、私はそんなことしていない…」悠は彼の言葉が理解できず、何が起きたのかまるで分からなかった。
昨夜、彼は彼女の中で何度も解放し、まるで満たされない猛獣のように狂おしく求めてきた。なのに今は――一体、どこで歯車が狂ってしまったのだろうか。
宴はベッドから大股で降りると、薄い毛布で下半身だけをかろうじて覆い、悠に迫った。高い位置から見下ろすその瞳には、揺るぎない熱が宿っていた。
彼の視線は一瞬だけ悠の服に留まり、明らかな嫌悪を滲ませた表情を浮かべると、すぐに背を向けて浴室へと歩き去った。
悠は虚ろな目で天井を見つめた。すべては偽りだったのだ。昨夜の奔放さも、執着も、すべてが幻だった。
七年間も深く愛した夫は、結婚してまだ一年しか経っていないというのに、自分を軽蔑し、愛情のかけらも見せない。これが現実だった。
もっと早く気づくべきだったのに!
悠は心身ともに、本当に疲れ果てていた。
結婚して一年。彼女は懸命に努力し、全身全霊で宴を愛してきた。
三百平方メートルの別荘には使用人が一人もいなかったが、彼女は毎日埃一つないように掃除を欠かさず、宴が帰ってこない日も多い中で、一日三食、美味しくて豊かな食事を用意していた。
宴の服はいつも手洗いし、彼女自身が丁寧にアイロンをかけていた。そのため、どの服もまるで新品のように美しかった。彼女は無駄遣いをせず、他人と比較せず、社交の場にも顔を出さなかった。すべての出費は細かく記録し、節約を徹底していた。
年長者には孝行を尽くし、宴の家族がどれほど彼女を困らせても、すべての苦難を黙って受け入れ、決して宴を困らせることはなかった。
言わば、子供がいないこと以外は、彼女は自分が良い妻であると自負していた。
だが、結果はどうだったのか?
彼女は依然として、愛されることのないピエロのままだった。
宴がシャワーを浴びて戻ってくると、悠を見るその目には依然として軽蔑の色が濃く浮かんでいた。
「私たち、離婚しましょう!」その言葉を口にした瞬間、悠はまるで息が吹き返したような気がした。
よかった、すべてがついに終わった。もういつ終わるのかと心配する必要もない。
宴は足を止め、鋭く振り返った。「何だって?」
「宴、私たち、離婚しましょう。あなたに自由を返すわ。誰を愛そうと、あなたの望むままに…」
宴は一歩踏み出し、その深い瞳には怒りの炎が燃え盛っていた。
「悠、何か忘れていることはないか?」
「最初からお前が薬を盛り、寝室に忍び込み、母親と共謀して結婚を強要しなければ、冷川家の門をくぐることすらできたと思っているのか?」
「離婚?」
「離婚するにしても、それを切り出すのは俺の役目だ」
「お前にはその資格がない!」
男は軽く袖を振ると、足早に立ち去っていった。
悠は呆然と床に座り込み、まるで全ての感覚を失ってしまったかのようだった。
宴の言う通りだ。これは最初からすべて間違いだった。そして彼女は、とっくに降参してしかるべきだったのだ。
…
朝食の席で、宴はテーブルの上に置かれた離婚協議書を目にした。
悠は静かに、彼の向かいに腰を下ろした。
宴は鼻で嘲笑うように笑い、離婚協議書をテーブルに強く叩きつけた。
彼は、悠が今になって急にこれを作ったのではないことを見抜いていた。明らかに、この女は以前から入念に準備を進めていたのだ。
彼は皮肉たっぷりに口を開いた。「そんなに急いでいるのか?もう次の相手でも見つけたのか?」
悠は答えなかった。確かに、彼女は以前から着々と準備を進めていたのだ。
あのメッセージを受け取った瞬間、彼女は自分の結婚が終わったことを悟った。
離婚協議書は引き出しの中で数日間眠っていたが、彼女はそれを取り出す勇気がなく、宴に「離婚」の言葉を切り出せずにいた。
塵のように卑屈な冷川夫人――彼女はまだ、その役を十分に演じきれていなかった。
しかし、彼女には本当に、逃げ場も選択肢も残されていなかった。
「宴、サインして。私は何も望まない」
宴は怒りをこらえきれず、歯を食いしばって笑った。
恥も知らずに冷川家に嫁いできた計算高い女が、何も要求しないだって?
彼は協議書をゴミ箱に投げ捨てた。「悠、そんな芝居は通用しない」
彼の瞳は嘲笑に満ちていた。「本当に離婚したいなら、なぜ昨夜俺に薬を盛ったんだ?」
薬?
悠は信じられない思いで目を見開いた。
どんな薬を使ったっていうの?
彼女はそんなことを決してしていない。
「今、俺がお前をどれだけ嫌っているか、わかったか?」宴は憎々しげに言い放った。「薬を飲まなければ、俺はお前に一ミリの興味も持たない」
男は黙って背を向け、足早に立ち去ろうとした。
悠は慌てて駆け寄り、彼の腕を強く掴んだ。「宴、違うの。私はあなたに薬なんて盛っていないわ」
「そんな嘘、誰が信じると思ってるんだ?」宴は冷たく言い放つと、乱暴に彼女の手を振り払った。
悠はよろめきながらも必死に首を振り、「違うわ、本当に違うの!」と強く訴えた。
しかし、宴はもはや彼女の言葉に耳を貸そうとはしなかった。
彼女が、そんなことをやったっていうのか?
じゃあ、自分で自分に薬を盛ったって言うのか?
この女は嘘ばかり言いやがって、嫌悪感しか抱けない。
男はまるで風のように、静かに去っていった。
悠は必死に首を振り続けていた。
あまりにも滑稽だった。
すべてが――何もかもが、あまりにも滑稽だった。
だから、昨夜あんな態度を見せたのか…彼の心がようやく動いたのだと、信じて疑わなかったのに。
彼女はその場に崩れ落ち、長いこと泣き続けた。涙が枯れるころになって、ようやく立ち上がるだけの力が、少しずつ戻ってきた。
彼女は階段を上り、静かに荷物をまとめ、出発の準備を整えた。
この瞬間になって初めて、悠はこの結婚が取り返しのつかない失敗だったと痛感した。
式も指輪もなく、この一年、彼女はただの一度も贈り物をもらったことがなかった。
彼女の荷物は、一年前にここへ来たときのまま、ずっと開かれずに残っていた。
あの頃の彼女はまだ純粋で、きちんと暮らしていれば、いつか本当の「自分の家」が手に入ると信じていた。
まさか現実が、こんなにも痛烈な平手打ちを彼女に食らわせてくるとは思わなかった。
しかし、冷川家を離れてしまったら、彼女はいったいどこへ行けばいいのだろう。
悠は、もう林家には戻れないことを痛いほど理解していた。彼女の母は、宴をまるで金のなる木のように見なし、決して彼女の離婚を認めることはないだろう。
視界の端に、彼女はふとベッドサイドのコップの水に気づいた。しかし、それが自分で置いたものではないことは、はっきりと覚えていた。
悠は信じられないような表情で、昨夜の出来事のすべてをじっと思い返した。
すべての始まりは、宴がベッドサイドテーブルのこのコップの水を口にしたことだった。そして、このコップの水は――ただの水ではなかった。
ある可能性が頭をよぎり、悠は信じられない思いで部屋を飛び出した。