第36章 島子がまた手首を切った

翌日の朝早く、冷川宴はホテルのロビーで1時間待ったが、誰も現れなかった。

ついに我慢の限界に達し、彼は直接802号室に向かった。

しかし、何度ノックしても誰も出てこなかった。

通りかかった清掃員が恐る恐る彼に声をかけた。「あの、林悠さんをお探しですか?」

林悠はここに何日も滞在していて、すでに清掃員と顔なじみになっていた。

「彼女は出かけましたか?」冷川宴は冷たい声で尋ねた。

「いいえ、たぶん」清掃員は思い出しながら言った。「林悠さんは昨夜から戻っていないようです。」

冷川宴は眉をひそめた。「では...裴という姓の男は?彼も戻っていないのか?」

「え?」清掃員は理解できなかった。「802号室には林悠さん一人しか宿泊していません。」

「彼女は裴という男と一緒に住んでいないのか?」冷川宴は少し驚いた。

清掃員は首を振った。「いいえ、誰も訪ねてきませんでしたよ。林悠さんは仕事が忙しいようで、朝早く出て夜遅く帰るという感じで、誰かを連れて帰ってくるのは見たことがありません。」

冷川宴は考え込みながら階下に降りた。

何度か電話をかけたが、相手の電源が切れていることに気づいた。

車に戻ってから、彼はある事実に気づいた。バルイのオフィスビルがすぐ近くにあったのだ。

「バルイへ行け」彼は運転手に命じた。

30分後、冷川宴はバルイ会社の入り口に現れた。

以前何度かビルの下で見かけた限定イケメンとして、多くの人が彼を認識していた。

「こんにちは、林部長をお探しですか?」勇気を出して話しかける人がいた。

「林悠を探している。ここのイラストレーターだ」冷川宴は冷たく言った。

「ああ、彼女のチームはあちらです。ご案内します」

冷川宴はすぐに林悠のオフィスに案内された。

「爽子、このイケメンが林悠を探しているわ」

周防爽子は一目で冷川宴だと分かった。彼女は林悠から、冷川宴が林悠と離婚して林美芝と結婚する計画だと聞いていた。

彼女は良い顔をしなかった。「島子はまだ来ていないわ」

「彼女のデスクはどこだ?少し座って待つ」

冷川宴は周防爽子の態度を無視した。

「あそこよ!」周防爽子は顎をしゃくった。

彼女は急いで林悠にメッセージを送った。

【島子、どこ?あなたの元夫が会社に来てるわよ】