第73章 接待酒

君時陵は眉を少し上げた。夏挽沅のプライバシーを覗き見ることになると分かっていながらも、思わずそのWeChatメッセージを開いてしまった。

「秦塢」と登録されているこの人物のプロフィール写真は、陽気で優しい笑顔の男性だった。

夏挽沅を食事に誘うメッセージを見て、君時陵は唇を引き締め、瞳の色が深く沈んだ。

「秦塢とは誰だ？」

林靖がちょうど退室しようとしたとき、君時陵が突然彼を呼び止めた。

さすがは年俸一千万近くの林特別秘書、その給料は決して無駄ではない。

君時陵の突然の質問に対し、林靖は頭の中で情報を整理し、以前調査した資料をすぐに思い出した。

「秦塢は比較的知名度のある俳優で、夫人と共演した『長歌行』の男性主役です」

「分かった、下がっていい」

「かしこまりました」君時陵がこれ以上質問しない限り、林靖は上司の心中を詮索することは決してしない。

君時陵はスマホを閉じ、近くのテーブルに座って食事を始めた。

秦塢は長い間考えを巡らせた末、ドラマの宣伝を口実に夏挽沅にWeChatメッセージを送ったが、彼女からの返信がなかなか来ないため、もう一度メッセージを送った。

「挽沅、忙しいの？」

スマホが一度振動し、君時陵はちらりと見た。挽沅？随分と親しげな呼び方だな。

その後スマホに新たなメッセージは届かず、オフィスには君時陵の静かな咀嚼音だけが響いていた。

「夏ちゃん、あのね、会社に来てもらえないかな」夏家の会社を出た夏挽沅は、屋敷に戻るつもりだったが、陳勻から電話がかかってきた。

夏挽沅は創星エンターテイメント会社のビル前に到着した。それは非常にモダンな建築様式の高層ビルだった。

君氏グループの厳格さとは異なり、創星エンターテイメントの至る所に所属タレントの電子広告画面があり、ロビーに入るとどこを見ても所属アーティストのプロフィールが掲示されていた。

「おや、これは夏プリンセスじゃない？まぁ、今日は小公主様がお忙しい中、会社にいらっしゃるなんて、太陽が西から昇ったみたいね」

夏挽沅がエレベーターを待ちながら壁のアーティストプロフィールを見ていると、明らかに敵意のこもった女性の声が耳に入ってきた。

振り向くと、非常に美しい女性が立っており、彼女の隣には同じく派手な服装の女性が二人いた。