第86章 夏挽沅が夏社長になる

「挽沅、この株式はもう君に譲渡したよ。君少が約束した資金はいつ入金されるんだい?」

喜び勇んで契約書にサインした夏お父さんは、夏挽沅側の資金が入金されるのを待つだけだった。そうすれば従業員を再び集めることができ、夏家の会社も蘇生できるはずだった。

挽沅はテーブルに座り、「資金はもう入金されています」と言った。

「それは良かった!会社がようやく救われる。先に帰っていいよ、今回は本当にありがとう」夏お父さんは書類を片付け、以前のオフィスへ向かおうとした。

しかし挽沅は後ろからゆっくりと口を開いた。「これは私の会社です。どこへ行けというのですか?」

「どういう意味だ?」夏お父さんは驚いて振り返り、怒りを含んだ声で尋ねた。

「この意味です」挽沅は手にした書類を軽く振り、お父さんの詰問に動じる様子もなかった。

「挽沅、お前は会社の経営なんて経験したことがないだろう。会社がようやく復活したんだから、お父さんに任せなさい」

なぜか夏お父さんは、挽沅の澄んだ瞳に予想外のものを見出した。この娘はもう自分のコントロール下にないかもしれないと感じ、語調を和らげた。

「私なりに経営する方法を考えます。もし会社にいたいなら、顧問として何か問題があれば見てもらえばいい。そうでなければ、家に帰ってあなたの愛妻と過ごせばいいでしょう」挽沅は、顔を赤らめた夏お父さんを一瞥した。

「もうすぐ息子が生まれるんでしょう?家で韓媛と過ごした方がいいですよ」

「お前!!」夏お父さんは激怒し、挽沅を指差した。「お前はずっと計画していたんだな。夏家のような大きな会社を、何も分からないお前がどう経営するというんだ?!夏家をお前の手で潰すつもりか?」

「お父さんこそ冗談を。会社はあなたの手で破産したはずです」夏お父さんの言葉を聞いて、挽沅の目に冷たい光が走った。「それに、私はすでに会社を経営する人選を決めています」

挽沅はそう言いながら、オフィスの入り口に立つスーツ姿の男性に視線を向けた。

「沈騫?!」国内で急速に台頭している若手実業家として、夏お父さんは沈騫に強い印象を持っていた。能力も野心もある若者だった。

沈騫は本来、他人の会話を盗み聞きするつもりはなかったが、夏お父さんの声があまりにも大きかったため、この父娘の権力争いを否応なく聞いてしまった。