第106章 姫と君少の心の内

君時陵は夏挽沅が配信ルームを離れた後、書斎から出て、彼女が庭の東屋に向かう姿を遠くから見ていた。

東屋に一人座る夏挽沅を見ていると、君時陵はなぜか彼女の周りに孤独が満ちているように感じた。まるで山頂に咲く白梅が、一陣の風に襲われ、一時的にその輝きを覆われたかのようだった。

君時陵は思わず東屋へと歩み寄った。

夏挽沅は欄干に寄りかかり、空の満月を見上げながら、月はこの世で夏朝を知る唯二のものではないかと考えていた。

この満月は、千年前に父皇や母后、弟や妹たちと手を繋いで見上げた、あの月と同じなのだろうか。

「夜は冷えるよ、寒くないか?」

突然背後から君時陵の声が聞こえ、夏挽沅が振り向くと、彼の体温が残る上着がすでに彼女の肩にかけられていた。

上着にはまだ温もりが残っており、夏挽沅の心の中の孤独と冷たさを少し払いのけてくれるようだった。

「忙しかったんじゃないの?」夏挽沅は上着を引き寄せた。

「君は不機嫌だ」君時陵は人の心を見抜く達人だった。それに、夏挽沅が振り向いた時の冷たさを含んだ瞳を見て、もし彼女に声をかけなければ、この人は消えてしまうのではないかという荒唐無稽な感覚を覚えたのだ。

「少しね」夏挽沅も時陵に対して取り繕わなかった。

「うん」時陵はそれ以上質問せず、挽沅から少し離れた椅子に座った。

二人はそれ以上言葉を交わさなかった。挽沅が話さなければ、時陵も追及しない。挽沅は元の姿勢に戻り、欄干に寄りかかって空の満月を見つめていた。数筋の黒雲が流れてきて、一時的に澄んだ月を隠し、天地はやや暗くなった。

しばらくして、挽沅が突然口を開いた。

「君時陵、あなたは何のために生きているの」

時陵は顔を上げて挽沅を見た。灯りの下で、挽沅の横顔は繊細で朧げに見え、いつもの気品ある美しさの中に、今は少しの戸惑いと茫然さが滲んでいた。

「俺は君家の後継者として生まれた」時陵の低い声が響き、挽沅は彼に視線を向けた。

「だが俺も自分が本当に何のために生きているのか知らなかった。君家は別の誰かが権力を握っても変わらず運営されていくだろう」

挽沅は少し目を見開いた。彼女はいつも時陵が高度に自律的で、常に自分の原則を持って行動し、まるで天を支える鋼鉄のような人物だと思っていた。しかし、そんな人が自分が何のために生きているのか分からないと言うのだ。