第208章 髪の間のキス

そのとき、少し離れたところにある黒い普通サイズのセダンが突然ライトを点滅させた。

窓が下がり、君時陵が後部座席に座り、夏挽沅に手を振った。

挽沅は歩み寄り、少し驚いた様子で「どうして車を変えたの？」と尋ねた。

「あの車は道中で擦ってしまったから、一時的にこの車に乗り換えたんだ。さあ、乗って」時陵はドアを開けた。

運転手は前で呆れた顔をしていた。金持ちのやり方が理解できない。あの車はちゃんと車庫にあるじゃないか、どうして擦ったなんて言うんだ？自分は運転手なのに、なぜ知らないんだろう？

飛翔する女神像を頂いた車が徐々に遠ざかるのを見て、陳勻は呆れた顔で言った。「これが人間の言うことか？一時的に車を変えるって？一時的な車でも数千万円レベルだぞ、まったく金持ちが憎らしい」

「私はね、君社長がわざわざ挽沅を迎えに来たんじゃないかと思うわ」唐茵は時陵の車に気づいていなかった。ただ、彼にとっては控えめな車に乗り換えたのは、騒ぎを起こさずに堂々と挽沅を迎えに行くためではないかと思った。

もっとも、時陵が理解する「控えめ」と一般人が理解する「控えめ」の間には、少々誤解があるようだが。

「まあいいや、タクシー拾って帰ろう。送るよ」勻が道路でタクシーを止めようとしたとき、高級仕様のBMW二台がゆっくりと彼らの前に停車した。

眼鏡をかけたハンサムな男性が車から降りてきた。

「こんにちは、君氏グループのアシスタントです。この車の鍵をお二人にお渡しします。ガソリン代や整備費は心配いりません。今後はこの車で奥様をお迎えください」

林靖はそう言うと、鍵を勻に渡し、自分は前の車に乗って去っていった。

勻と茵は顔を見合わせた。なるほど、挽沅についていくだけで生活の質が一気に向上するというわけだ！

一日中撮影をして、疲れていないはずがない。車はとても安定した速度で走り、徐々に挽沅の眠気が襲ってきて、シートに寄りかかって眠ってしまった。

時陵は横を向いて彼女を一瞥すると、手を伸ばして彼女を優しく抱き寄せた。

この数日間の朝夕の付き合いで、挽沅はすでに時陵に対する警戒心を解き、彼を自分の安全圏内に入れていた。時陵が近づいても少しも反応を示さなかった。

今、時陵に抱かれていても、挽沅は少しも不快感を感じず、むしろ頼りになる存在を見つけたかのように、両腕で時陵の腰に回した。