(250章のキスシーンは251章に追加されました。見つからない場合はキャッシュをクリアして251章を再度開いてください。すでに見た方は再度見る必要はありません。)
部屋の中は一時、静寂に包まれた。
「わかりました」夏挽沅は頷いた。
「よし、二階に行って仕事をするよ。何かあったら呼んでくれ」君時陵はようやく温厚で優雅な様子に戻り、目には少しの波風も見えなかった。しかし挽沅は特に嬉しいとは感じず、むしろ心の中に奇妙な喪失感があった。
たった今、ほんの一瞬、時陵は挽沅に直接尋ねようと思った。離婚しないでくれないか、彼の側にいてくれないか、彼のことを少し好きになってくれないか、と。
しかし時陵は結局我慢した。
数百億の商売をする時でさえ、彼は恐れたことがなかった。精密な計算と強力な論理的思考力で、ビジネスの収益を予測できたからだ。たとえ50%もの高いリスクがあっても、自分の能力でそのリスクを抑えることができた。
だが挽沅の前では、0.01%のリスクさえ負う勇気がなかった。一度口にしてしまえば、もう取り返しがつかなくなることを恐れていた。
挽沅は落ち着かない気持ちで一階でテレビを見ていた。すでに就寝時間になっていたが、まだ二階に上がっていなかった。
小寶ちゃんはまだ屋敷に戻っておらず、主棟には二人だけが残っていた。以前なら全く普通のことだったのに、今日は挽沅に妙な不安を感じさせた。
「奥様、もう寝る時間ですよ」李おかあさんが近づいてきた。
「君時陵は?」
「若様はすでに客室でお休みになっています」李おかあさんは少し心配そうに挽沅を見た。二人は喧嘩でもしたのだろうか?
「ええ、わかりました」挽沅はようやくテレビを消し、階段を上がった。
挽沅の睡眠の質は常に良かったが、今日は珍しく眠れなかった。
小寶ちゃんと時陵がいないベッドは、空間がとても広く感じられた。挽沅はベッドの上でごろごろと転がると、見慣れた松の香りがした。
その香りは、今日プールで彼女がこの松の香りに包まれていた時の光景を思い出させた。時陵の荒い息遣いが耳元に吹きかけられているようで、あの優しくも侵略的な占有が脳裏に何度も蘇った。
暗闇の中、挽沅は顔を赤らめた。