第272章 思慕 ビデオ通話

君時陵はこれまで長年にわたり、出張に慣れていた。世界中を飛び回っていたが、これが初めて、彼がこれほどまでに出張を拒んだことだった。

君時陵は本来なら夏挽沅を連れて行きたかったが、フランスまでは10時間近くもかかること、そして夏挽沅は明日何かプロモーション活動があるようだということを考えると、その考えは諦めるしかなかった。

屋敷に電話をかけると、王おじさんが出て、挽沅はプールに運動に行ったと言ったので、時陵は電話を切った。

挽沅がプールから出てきたときには、すでに空は暗くなっていた。

君おじいさまが人を寄こして、小寶ちゃんを大邸宅に二日間泊めたいと伝えてきた。おじいさまが家で曾孫に会いたがっているとのことだった。

「君時陵は?」挽沅はお腹が空いてきたのを感じながら、時陵が帰ってきたら食事をしようと思っていた。

「若様はフランスに出張されました。今頃はもう機内でしょう」王おじさんは答えながら、使用人たちに料理を運ばせた。

「フランス?わかりました」挽沅は地図でその国を見たことがあった。とても遠い。

食卓に座ると、広大なダイニングルームに自分一人だけがいることに、挽沅は少し違和感を覚えた。

時間を数えてみると、彼女は随分長い間、一人で食事をしたことがなかった。

無意識に手元のコップを取ろうとしたが、何もなかった。いつもなら食事の前に、時陵が温かい水の入ったコップを彼女の手元に置いていたのだ。挽沅は自分で立ち上がって水を注ぐしかなかった。

挽沅は蒸しエビが好きだったが、今回は殻をむいてくれる人がいなかった。自分で手を動かすのが面倒だったので、エビを一目見ただけで諦めるしかなかった。

豆腐を一切れ茶碗に取ると、豆腐の上にあったネギや生姜、にんにくの細切れがご飯の上に落ちた。挽沅は思い出した。これまで時陵が彼女に料理を取り分けるときは、いつも彼女が好まないネギや生姜、にんにくを取り除いてから、茶碗に入れてくれていたのだ。

何を食べても以前ほど美味しく感じられず、挽沅は数口食べただけで諦め、キッチンからフルーツボウルを持って二階に上がった。

寝室のソファに寄りかかり、「喜羊羊(プレザント・ゴート)」を見ながらフルーツを全部食べ終えたが、挽沅は心の中の淡い憂鬱がまだ晴れないと感じ、携帯を脇に置いて、バスルームに入ってシャワーを浴びることにした。