第321章 愛してる

夏挽沅は顔を横に向けて君時陵を見た。いつもなら「挽沅妹妹」という一言で彼女と騒ぎ立てる君時陵が、今日は異常なほど静かに窓の外を見ていて、夏挽沅はかえって慣れない気分になった。

「彼が私を探したのは、衛家のおばあさまが私に会いたがっているからよ」夏挽沅は何かを思い出したのか、突然口を開いた。

「うん」

「彼は私に、母の死には別の原因があるかもしれないって言ったわ」

「うん」時陵はまだ窓の外を見たまま、振り向かなかった。

「衛子沐が私に扇子をくれたの。とても涼しくて、彼は本当に私を妹のように思ってくれているみたい。親族間のような感じで。なぜ彼がこんなに私に優しいのかはわからないけど」

「うん」時陵の身に漂う気迫は、夏挽沅の逐一の報告によって、徐々に和らいでいった。

夏挽沅は時陵の冷たい横顔を見つめ、どうやって会話を続けるべきか分からなかった。そのとき時陵が振り向き、夏挽沅を見つめた。その眼差しは深遠だった。

「バカだな、僕は一度も本気で怒ったことなんてないよ。あれは全部からかっていただけさ。僕は君を信じている」時陵は一瞬言葉を切り、まるで全身の勇気を振り絞って次の言葉を口にした。

「たとえ最後に君が選ぶのが僕じゃなくても、僕は君を信じる。僕はいつだって君の選択を尊重するよ」

夏挽沅の心が一瞬止まった。彼女は笑顔を浮かべ、初めて自ら時陵に手を差し伸べた。「ハグして」

時陵はレストランの外で丸一時間も心の準備をし、ようやく高い心理的防壁を築き上げたのに、夏挽沅のその軽やかな「ハグして」という一言で崩れ去ってしまった。

時陵はようやく指の跡がついた自分の手を緩め、夏挽沅をしっかりと抱きしめた。

夏挽沅には見えない場所で、時陵の目に愛情と独占欲が溢れ出し、見る者の心を震わせるほどだった。

たった今、彼女がいなくても大丈夫だと自分に言い聞かせていたのに、夏挽沅を腕に抱いたこの瞬間、時陵は彼女がいなくなったら自分がどうなるか想像できなかった。

口に出せない欲望、深く隠された強い独占欲、日々抑え込んでいるのに雑草のように狂ったように育つ情熱、それらすべてが夏挽沅の慰めの「ハグして」という一言で和らぎ、心臓から湧き出る愛情が体のすみずみまで駆け巡った。

「愛してる」時陵は夏挽沅の耳元で静かに言った。夏挽沅の体が硬直した。