第337章 姫が甘える ふふっ

「熱はないのに、どうしてこんなに顔が赤いのかしら」医者は小声で呟き、それから看護師に指示した。「定期的に窓を開けて換気するように。室内が密閉されすぎていると、空気が悪くなるわ」

医者の言葉を聞いて、夏挽沅は顔が熱くなり、こっそりと君時陵を見た。すると、ちょうど君時陵の笑みを含んだ視線と目が合ってしまった。

夏挽沅の回復状態は良好で、医者はいくつか注意事項を伝えた後、病室を後にした。

さっきのことが恥ずかしくて、挽沅は珍しく時陵に対して拗ねてみせた。彼を軽く睨みつけると、わざと時陵の話に応じないようにした。また顔を赤くするような言葉を言われるのが怖かったのだ。

時陵は今、一分一秒でも挽沅と離れたくなかった。医者が去った後、彼はベッドに腰掛けた。

「妻よ、抱きしめさせて」時陵は布団に入ると、挽沅に向かって両腕を広げた。

「ふん」挽沅は軽く鼻を鳴らした。「嫌よ」

挽沅がこんなに愛らしい様子を見せるのは珍しく、時陵は怒るどころか、むしろ格別な魅力を感じ、心の中で挽沅が愛おしくてたまらなかった。

「じゃあ、僕から抱きしめるよ」時陵は長い腕を伸ばして、挽沅を抱き寄せた。

実は挽沅も時陵の抱擁が好きで、安心感を覚えていた。口では拒否していたものの、時陵の腕の中にいると、挽沅も抵抗しなかった。

静かに挽沅を抱きしめながら、時陵は傍らの本を取って挽沅に読み聞かせた。時間はそうしてゆっくりと過ぎていき、あっという間に昼食の時間になった。

運ばれてきた昼食は、いつものようにお粥と小皿料理だった。

時陵がお粥の味が薄すぎると感じていただけでなく、挽沅も一週間近くまともなものを食べておらず、続けて二食もお粥を食べたため、今では口の中に何の味も感じなくなっていた。挽沅は思わず抵抗を示した。

「もうお粥は飲みたくないわ」挽沅は白くて味気ないお粥を少し嫌そうに見た。

「いいこだ、医者が言っていただろう。まずは消化の良いものを食べて胃腸を整えないと。君はあまりにも長く何も食べていなかったんだから」時陵はお粥をスプーン一杯すくって、挽沅の口元に運んだ。

時陵の励ますような視線の下、挽沅は一口飲み込んだ。やはり同じ味だった。挽沅はもう二口目を飲む気にはなれなかった。

挽沅は唇を噛んで、時陵の袖を引っ張った。「これじゃなくてもいい?味がしないわ」