地牢を出ると、君時陵は眉をしかめた。
Kさんがなぜ夏挽沅に手を出したのだろう?もしかして夏挽沅の身分がバレたのか?
いや違う、君時陵はすぐにその考えを否定した。
もし夏挽沅の身分が露見したのなら、彼女を生け捕りにするはずで、命を奪おうとはしないはずだ。
しかし今、彼らは夏挽沅を殺そうとしていた。これは別の理由があるということだ。一体何だろう?
「旦那様、市内の被災者たちは全員適切に避難させました。上からの指示で、周辺の軍区の人員は先に戻っても良いかと問い合わせがありました」
「構わない。少数の人員を残して手伝わせ、他の者は撤収させろ」
君時陵が指示を出すと、臨西市に駐屯していた部隊は臨西市を中心に、徐々に外へと移動し始めた。臨西市全体が秩序正しく復興し始めていた。
君時陵が病室に戻ると、夏挽沅の姿が見えなかった。
「夏お嬢さんは隣の部屋で宣さんのお見舞いに行かれました」看護師が夏挽沅のベッドを整えながら、君時陵に説明した。
宣升?
時陵は挽沅を探しに行こうとしたが、足を踏み出した瞬間に立ち止まった。
道理で言えば、彼は宣升に感謝すべきだった。挽沅は深刻な脱水状態で、医師も言っていたように、もし宣升が自分の血を挽沅に飲ませていなければ、彼らが救助に来るまで持ちこたえることはできなかっただろう。
複雑な心境ではあったが、時陵は挽沅を信じることを選んだ。
隣の病室では、手厚い看護を受けている宣升の身体機能が徐々に回復していた。
普段は妖艶な雰囲気を漂わせている宣升だが、今は病院着を着て、穏やかな表情をしており、いつもより親しみやすく見えた。
「足の具合はどう?」宣升はまだ少し頭がふらついていたが、夏挽沅が来るのを見て、体を起こして座った。
「大したことないわ」看護師が夏挽沅を宣升のベッドの前に押し進めた。「あなたはどう?」
「良くないよ」宣升の切れ長の目が、いつもの曲線を描いて細められた。「体中が痛くて、夏お嬢さんの慰めが必要だな」
挽沅は微笑んで、そして真剣な表情で「ありがとう」と言った。
彼女は当時意識を失っていたため、宣升が自分の血で彼女を救ったことを知らなかった。時陵から聞いて初めて知ったのだ。
「実は僕は君に感謝されたくなんかないんだ」夏挽沅のこの一言の「ありがとう」で、二人の間の距離が厳格に区切られた。