翌日の朝早く、君時陵は夏挽沅を連れて帝都行きの飛行機に乗った。
林靖が宣升に尋ねた、一緒に行かないかと。宣升は「恋敵の飛行機に乗りたくない」という一言で林靖を黙らせた。
ふん、林靖は心の中で思った、あなたが寝ていたのはその恋敵が用意したベッドですけどね。
飛行機が帝都に到着すると、すでに空港で待機していたスタッフが君時陵と夏挽沅を屋敷まで送り届けた。
「ママ」丸一週間も夏挽沅に会えなかった小寶ちゃんは、顔中に涙をためて、とことこと夏挽沅に向かって走ってきた。しかし、夏挽沅から5メートルほど離れたところで足を止め、ゆっくりと慎重に近づいてきた。
「いい子ね、おいで、ママが抱っこしてあげる」夏挽沅は小寶ちゃんの哀れな様子を見て、心が和らぎ、小寶ちゃんに手を差し伸べた。
「ママ、会いたかった」小寶ちゃんは優しく夏挽沅を抱きしめ、何か悪いことが起きないよう気をつけていた。
「調子はどうだ?体の具合は良くなったか?」老人も今日は屋敷に来ていた。
「ご心配ありがとうございます、おじいさま。もう大丈夫です」
「それは良かった、本当に良かった」老人は君時陵を一瞥し、感慨深げに言った。「お前が無事で良かった。さもなければ、この孫がどんなことをしでかすか分からなかったからな」
彼はずっと君時陵があまりにも冷淡だと感じていた。自分の孫に少しでも温かみがあればと思っていたが、温かみを持った君時陵がこれほど恐ろしいものになるとは思ってもみなかった。
あの雨の夜、君時陵に電話をかけた時の、まるで全世界を失ったかのような絶望的で詰まった声を、彼は決して忘れることができないだろう。
男は簡単に涙を見せないものだ。ましてや君時陵においてはなおさらだ。彼が最後に君時陵が泣くのを見たのは、君時陵が3歳の時、両親の葬儀の時だった。
正直に言えば、彼は君時陵の育児にあまり関わってこなかった。君時陵が独自にどれだけの勢力を築き上げたのかも知らなかった。普段、君時陵はそれを見せることはなかった。
後に老人が表舞台から退き、君氏グループを君時陵に任せると、彼はわずか4年で企業規模を倍にした。老人の心には何か推測があったが、君時陵は普段多くを語らず、老人も尋ねなかった。