夏挽沅は黙っていた。君時陵も彼女の隣を歩きながら声を出さなかった。長い廊下には二人の足音だけが響き、君時陵の心はその一歩一歩の音とともに、ますます沈んでいった。
「僕は」君時陵が夏挽沅に何かを説明しようとした瞬間、玉のように白い手が自分の手を握るのを感じた。
君時陵は思わずその手をきつく握り返し、振り向くと夏挽沅の冷たく美しい横顔が目に入った。
「僕のこと、怖いと思う?」君時陵は慎重に尋ねた。
挽沅は口元をかすかに上げ、隣の時陵を見た。「思わないわ。あなたは素敵よ」
彼女は純粋な少女ではなかった。彼女は知っていた。純粋さと光だけでは、時陵が今の地位に立つことはできないということを。
彼女が前世で経験した政界のように、華やかな表面の下には、どれほどの政治的な謀略が、どれほどの陽謀陰謀が埋もれているか。最終的に花が咲き誇る大通りの裏側には、どれほどの死体の山、骨の海が積み重なっているか分からない。
彼女はそんなに臆病ではなかった。時陵の暗い一面を見たからといって、この人を否定するようなことはない。
時陵の周りにどれほどの闇があろうとも、彼女は知っていた。彼が支えているのは一片の光だということを。
挽沅の目に映る率直さを見て、時陵の心は温かくなり、彼女を腕の中に引き寄せた。
挽沅には見えない背後で、時陵の目には激しい暗い光が渦巻いていた。
挽沅のような素晴らしい人に対して、鄭雲があのような方法で扱おうとしたことを思うと、時陵の心は抑えきれないほどの暗闇に支配されていた。
彼は誰一人として挽沅を汚すことを許さなかった。たとえそれがほんの少しであっても、彼は我慢できなかった。
挽沅は手を伸ばして時陵の背中を優しく叩いた。「私はもう彼を罰したわ。あまり怒らないで、いい?」
「うん」時陵のこもった声が聞こえた。「どうしてこんなにも多くの人が君を狙うんだ」
挽沅は思わず笑った。「あなたがいるじゃない?私は何も心配していないわ」
もし先ほど挽沅が来ていなければ、時陵は本当に極端な考えを持っていたかもしれない。しかし挽沅の慰めの言葉のおかげで、時陵はついに鄭雲の命を助けることを決め、ただ彼を第七刑務所に軟禁することにした。
「送って行くよ」
「ええ」