第370章 真に平手打ち 羅曼大師が弟子を取る

「夏挽沅！！よくも！」リチャードの右足はこの時、まったく感覚がなく、地面に膝をついていた。周囲から散り始めた観客たちが複雑な視線を投げかける中、リチャードは怒りに満ちた目で夏挽沅を見つめ、表面上の微笑みさえ維持できなくなっていた。

リチャードの言葉が終わらないうちに、挽沅の二発目の平手打ちが彼の顔に直撃した。「パン」という音が劇場中に響き渡った。

挽沅は巧みな力加減で打ったものの、たった二発でリチャードの両頬は大きく腫れ上がり、ヒリヒリと痛んでいた。

挽沅は先ほど受け取った決勝戦の招待状を取り出し、リチャードの目の前でひらひらと振った。「見えるかしら？あなたが一生かけても手に入れられない招待状よ」

「何が得意になってるんだ？たかが決勝進出の資格一つで、そんなに傲慢になるなんて、やはり見識の狭い華国人だな」リチャードはその招待状を見る目から火が出そうなほど怒りに震えていた。

「国籍を変えても、現地の生活に溶け込めない、そんな気持ちはとても惨めでしょうね？」挽沅はリチャードの目に怒りが高まるのを見て、さらに続けた。「あなたの昔の友人たちは、今頃華国で成功して名を上げているでしょうね？でもあなたはもう戻れない。権力者の前でしっぽを振って媚びを売る犬になるしかないのよ」

挽沅の言葉は鋭い刃物のように、リチャードの傲慢さと劣等感が入り混じった心の奥深くを刺し貫いた。彼の顔は青くなったり赤くなったりして、その表情は滑稽極まりなかった。

挽沅は唇の端をわずかに上げた。時間の無駄だった。この男のせいで音楽会を最後まで聴けなかったが、彼女のこの数言は、リチャードを一生葛藤と苦痛の中に閉じ込めることになるだろう。

「お嬢さん？」加羅王子が傍らで目を見開いて見ていた。

オーレ国の女性は外出時に黒いベールで顔を隠し、家庭内でも男性に対して極めて従順だった。彼はこれほど情熱的な女性を見るのは初めてで、まるでトゲのあるバラのようだった。一瞬にして男の強い征服欲を掻き立てられていた。

「時間がないわ」挽沅はそう言うと、そのまま劇場を後にした。背後の加羅王子の夢中になった視線など気にもとめずに。

「リチャード、この女性を知っているのか？どうすれば彼女を手に入れられる？」加羅王子は地面に膝をついたままのリチャードに向かって尋ねた。