第381章 行動キャンセル

「こんにちは、どうしてここに来たの？」

親密な時に君時陵にあまやかされて何度も「お兄さん」と呼んでしまって以来、夏挽沅は他の人を「お兄さん」と呼ぶのが恥ずかしくなっていた。

挽沅の冷淡さを感じ取り、衛子沐の目に一瞬の失望が過ぎったが、すぐに優しく微笑んだ。

「怪我をしたと聞いて、大丈夫かどうか見に来たんだ」

「もうほとんど良くなったわ。さっきまで撮影してたくらいだから、大したことないの」

「そう」子沐は頷いた。「撮影を見学させてもらえないかな？もし迷惑だったら構わないけど」

「大丈夫よ、公開されてるから、そこで見ていていいわ」

挽沅の許可を得て、子沐は撮影現場に入った。

周りの人々は清廉な雰囲気を持つこの人物に気づき、誰なのかと尋ねた。

「親戚の一人よ、ついでに見に来たの」挽沅は説明した。

挽沅と子沐の関係は非常に明瞭に見えたので、皆もそれ以上は詮索しなかった。

次の撮影シーンは、挽沅が地下組織のメンバーとなり、上海灘の様々な集まりに潜入して情報を収集し、外部に伝えるというものだった。

撮影には危険に見えるアクションが多く含まれていたが、現場のスタッフは慣れた様子だった。しかし子沐の顔には本物の心配が浮かんでいた。

挽沅が時々彼の視線に気づくと、子沐の目には温かさが宿っているように感じた。

いつの間にか、今日の挽沅の撮影シーンはほぼ終わっていた。子沐は立ち上がり、「家まで送るよ」と言った。

「いいえ、結構」彼が送ってくれれば、自分が庄園に住んでいることがわかってしまう。そのため挽沅はきっぱりと断った。

「途中まででいいんだ。広場まで送るだけで。おばあさまがあなたに何か持たせるように言ったから、ちょうど道中で話せるし」

「わかったわ」挽沅は同意した。

子沐は挽沅の車に乗り込み、後部座席に座って窓を下げた。

「お客様、車内はエアコンが効いていますが、窓を上げていただけますか？」運転手は開いている窓を見て、注意した。

「車内が少し息苦しいので、少しだけ開けておいて、すぐに閉めます」子沐は穏やかに説明した。

「うん」挽沅は心の中で疑問を抱いたが、子沐からは危険な気配を感じなかった。それが彼女には不思議だった。