田原青山は父親と黒田おじさまが簡単に承諾しないことを知りながらも、この態度表明をせずにはいられなかった。さらに東京を離れる前に、黒田啓明を訪ねた。二人の父親の意見は一致していなかったが、誰の目にも田原青山が本気であることは明らかだった。
数日後、黒田俊均が前線から後方指揮部に戻ってきた。ジープ車から降りると、三和光太が駆け寄ってきた。「お前の父さんからだ。すぐに電話をかけろって!」
俊均は一緒に車から降りた二人の参謀を見て、先に指揮部へ向かって歩き出した。「暇じゃない!」
光太は後を追った。「今すぐじゃなくていい。でも後で必ず連絡しろって。かなり怒ってるぞ!どうしてこんな時に蜂の巣を突っついたんだ?帰ってからゆっくり話せばいいじゃないか?」
「ダメだ!早く説明しなきゃならない!」俊均は光太の肩を叩いた。「お前は行って。報告が終わったら必ず家に電話するよ」
「お前の家のことは知らないぞ。お前の父さんに約束したんだ、絶対に電話させるって!」
「わかったよ、わかった!」
二人が玄関を入り、階段の前で別れようとした時、上から若い軍人が降りてきた。姿勢が良く、顔立ちが整っていて、遠くから見ると冷たい雰囲気を漂わせていたが、近づくと笑顔を見せ、まるで春風のように人を温かく迎え入れた。
軍の指揮部では、誰もが一分一秒を争うように忙しく、すれ違う時は頷くだけで、会話すら余計なものだった。若い軍人は全員に笑顔を向けたが、特に俊均に向かって頷いていた。
俊均は光太と目を合わせた。「あの人、なぜか子供の頃に喧嘩したような気がするんだけど」
光太は肩をすくめた。「気のせいだろ?谷村俊樹は北海道北部の出身だ。知り合いのはずがない」
「谷村俊樹、俊樹か...名前まで妙に馴染みがある気がする!」
光太は言葉を失い、右側に立っていた石渡参謀が軽く笑った。「前回の武術大会に参加しなかっただろう?この谷村中隊長が我々の連隊が3年間守ってきた第一位を奪ったんだ。知らないはずがないだろう?」
そういう理由か?違う気がする!
俊均は首を振り、光太に手を振って階段を上がった。
40分後、俊均は会議室を出て、指揮部内の人気のない静かな事務所を見つけ、電話を取って番号をダイヤルした。交換手の声の後、すぐに黒田啓明の冷たく厳格な声が聞こえた。「黒田俊均!」
「はい、お父さん」