「前に取ったことがあるわ、彼女は……」谷村柳子は今では徐々に勉強が好きになり、その夜間学校にとても愛着を持っていた。白石晴美と熱心に話していたところ、突然このような質問をされ、すぐには反応できず、口を開いて半分答えてから不適切だと気づいたが、もう遅かった。
「彼女って誰?」晴美は微笑み、励ますような目で見つめた。柳子は渋々答え続けた。「吉田さんという姓だと言っていました……前回も……電話がかかってきたとき、二叔父さんは家にいませんでした!」
実は今生では、田原雅子の母親が電話をかけてきたのは初めてだった。柳子は以前彼女の電話を取ったと言ったからには、過去にも一度あったと言うしかなかった。
晴美はこの一言だけで十分だった。深く追求することもなく、もう柳子を見ることもなく、直接白石立和の書斎へ向かった。
柳子はしばらく一人で座っていたが、広間を出ると、順子お母さんがトレイを持って、どうやら二叔父さんの書斎へ向かっているところだった。急いで駆け寄ってトレイを奪い取ると、順子は大慌てした。「あらまあ、この子ったら、気をつけて!こぼさないでよ!これは特別に二少爺様のために煮込んだ滋養スープなのよ!二少爺様は外で忙しく働いて、家に帰っても一日中書斎で勉強しているんだから、しっかり栄養をとらないと……」
柳子は心の中で冷ややかに思った:もう二人の妻を娶って六人の子供を産ませたのに、まだ二少爺様?とっくに二旦那様と呼ぶべきでしょ!
しかし口に出したのは「安心してください、順子お母さん。私の方があなたより手早いし、目もいいから、こぼしたりしませんよ。今すぐ二叔父さんに持っていきます。あなたは一日中疲れたでしょうから、休んでください!」
順子は呆れて笑った。「今になって私が疲れていることに気づくの?さっき手伝ってと言ったときは嫌がったくせに……ゆっくり急がないで、道をよく見て!」
「はい、わかりました!」
柳子は足音を立てず、静かに長い回廊を通り抜け、立和の書斎の前に来ると、左右を見回してから、ドアに近づいたが、ノックはせずに息を殺して中から聞こえてくる会話に耳を傾けた。