あの日、黒田家を出た後、真理子は田原家に戻って少し荷物を取り、誠一とおばあさんに別れを告げ、車で学校へ向かった。
まず誠一を東京大学に送り、それから自分の通う医科大学に戻った。真理子は意識を使って周囲を探ると、学校の東門と西門は施錠されており、正門だけが開いていることがわかった。そして正門脇の守衛室には二人の女性が座っていた。小林真実と吉田暁文だ。
真理子は冷笑し、運転手に西門付近で停車するよう指示した。車を降りて辺りを見回し、人通りが少ないのを確認すると、そのまま塀を飛び越えて中に入り、軽快に自分の寮に戻った。あの母娘が待ちたいなら、そのまま座って待っていればいい。
訪ねてきたところで何になる?たとえ世間が自分を不孝者だと思おうとも、真理子はその汚名を背負う覚悟で、小林愛珍の治療はしたくなかった。
前回、誠一の説得で吉田玄太に薬を処方したことさえ、今では後悔していた。
祖父母という言葉は、本来なら慈愛と愛情を表すものだが、前世では真理子はそれを経験できず、今世でも期待していなかった。そして吉田玄太と小林真実が真理子の前に現れたとき、彼らは完全に真理子の想像していた祖父母像を壊してしまった。
真理子が東京に来て大学に入学したばかりの頃、すべてがまだ慣れない中、この二人は暁文に連れられて、ほぼ毎週学校に来ては真理子に絡んできた。しかし彼らの目的は単純に孫娘を認知することではなかった。玄太は笑顔を浮かべ、熱心な眼差しで「さすが私の孫娘は美しい」と褒めちぎりながらも、数言葉交わすとすぐに話題を翡翠の彫刻に移し、言葉の端々で真理子にそれを祖父に預けるよう要求した。真実の目には確かに慈愛の色があったが、真理子はそこにもっと多くの計算と打算を見出した。まるで自分が秤の上に乗せられ、その価値が重ければ重いほど、その目に慈愛と喜びが濃くなるようだった!
真理子はこの感覚が好きではなかった。
暁文との母娘関係を断ち切った以上、玄太や真実とは他人同然であり、真理子には真実の病気を治療する義務などなかった。
真実は病院に入院し、専門医が診断と観察を行っており、病状はそれほど深刻ではなく、通常の薬物療法と適切な養生で十分コントロールできるはずだった。それなのに彼女は医師に協力せず、あちこち動き回っている。もし何か問題が起きたとしても、それは完全に自業自得だ。