この季節は、朝晩の気温差が大きい。
昼間は20度あるのに、夜の一番寒い時間帯には11、12度まで下がる。
野井北尾はスーツを着ているから、夜はきっと寒いだろう。
田口優里はそう言うと、自分の失言に気づいたようだった。目尻が既に赤くなっていることに全く気づいていなかった。
彼女はもう一度野井北尾を見て、足を踏み出して歩き始めた。
「優里ちゃん」
野井北尾は彼女を呼び止めた。
次の瞬間、野井北尾は手を伸ばして彼女が持っていた黒いゴミ袋を受け取り、エレベーターの前で彼女と並んで立った。
田口優里は手が軽くなり、首を傾げて彼を見た。
スーツの上着に壁の埃がついていても、男の美しさと気品は損なわれていなかった。
この少し狭い廊下は、むしろ男性と不釣り合いに見えた。
彼はもともとここにいるべき人ではなかった。
ましてやゴミ出しをするような人でもなかった。
田口優里は黙ったままだった。
エレベーターが来て、二人は前後して乗り込んだ。
中には他の人もいた。
予想通り、彼らの視線は全て野井北尾に注がれていた。
野井北尾の全身から漂う気品と並外れたオーラのせいだった。
しかし野井北尾が少し顔を上げて彼らを見ると、その人たちは心の中でぎくりとして、もう彼を見ようとはしなかった。
高い地位に長く身を置いて培われた威厳とオーラは、既に彼の体の一部となっていた。
1階に着いてエレベーターを降りる時、全ての人が目の当たりにした。この気品ある男性が手を伸ばしてエレベーターを支え、田口優里に先に行くよう促す姿を。
優しさに満ちた眼差しで、一挙手一投足に彼女への気遣いが表れていた。
二人は恋人同士のように体を寄せ合ったり、距離が近すぎるわけではなかったが、男性の言動を見ていると、誰もが彼の彼女への思いを感じ取ることができた。
田口優里は急いでエレベーターを出たが、それでも彼の熱い視線を無視することはできなかった。
自分の体に注がれるその視線は、まるで実体があるかのようだった。
建物を出るとすぐに、冷たい風が吹いてきた。
田口優里は思わず両腕を抱きしめた。
寒い。
気温が下がったのか?
10度もないように感じる。
彼女は薄着すぎた。
次の瞬間、肩に重みを感じ、懐かしい香りと温かさが彼女を包み込んだ。
振り返ると。