この季節は、朝晩の気温差が大きい。
昼間は20度あるのに、夜の一番寒い時間帯には11、12度まで下がる。
野井北尾はスーツを着ているから、夜はきっと寒いだろう。
田口優里はそう言うと、自分の失言に気づいたようだった。目尻が既に赤くなっていることに全く気づいていなかった。
彼女はもう一度野井北尾を見て、足を踏み出して歩き始めた。
「優里ちゃん」
野井北尾は彼女を呼び止めた。
次の瞬間、野井北尾は手を伸ばして彼女が持っていた黒いゴミ袋を受け取り、エレベーターの前で彼女と並んで立った。
田口優里は手が軽くなり、首を傾げて彼を見た。
スーツの上着に壁の埃がついていても、男の美しさと気品は損なわれていなかった。
この少し狭い廊下は、むしろ男性と不釣り合いに見えた。
彼はもともとここにいるべき人ではなかった。