第153章 私はあなたを騙ったことはない

この季節は、朝晩の気温差が大きい。

昼間は20度あるのに、夜の一番寒い時間帯には11、12度まで下がる。

野井北尾はスーツを着ているから、夜はきっと寒いだろう。

田口優里はそう言うと、自分の失言に気づいたようだった。目尻が既に赤くなっていることに全く気づいていなかった。

彼女はもう一度野井北尾を見て、足を踏み出して歩き始めた。

「優里ちゃん」

野井北尾は彼女を呼び止めた。

次の瞬間、野井北尾は手を伸ばして彼女が持っていた黒いゴミ袋を受け取り、エレベーターの前で彼女と並んで立った。

田口優里は手が軽くなり、首を傾げて彼を見た。

スーツの上着に壁の埃がついていても、男の美しさと気品は損なわれていなかった。

この少し狭い廊下は、むしろ男性と不釣り合いに見えた。

彼はもともとここにいるべき人ではなかった。

ましてやゴミ出しをするような人でもなかった。

田口優里は黙ったままだった。

エレベーターが来て、二人は前後して乗り込んだ。

中には他の人もいた。

予想通り、彼らの視線は全て野井北尾に注がれていた。

野井北尾の全身から漂う気品と並外れたオーラのせいだった。

しかし野井北尾が少し顔を上げて彼らを見ると、その人たちは心の中でぎくりとして、もう彼を見ようとはしなかった。

高い地位に長く身を置いて培われた威厳とオーラは、既に彼の体の一部となっていた。

1階に着いてエレベーターを降りる時、全ての人が目の当たりにした。この気品ある男性が手を伸ばしてエレベーターを支え、田口優里に先に行くよう促す姿を。

優しさに満ちた眼差しで、一挙手一投足に彼女への気遣いが表れていた。

二人は恋人同士のように体を寄せ合ったり、距離が近すぎるわけではなかったが、男性の言動を見ていると、誰もが彼の彼女への思いを感じ取ることができた。

田口優里は急いでエレベーターを出たが、それでも彼の熱い視線を無視することはできなかった。

自分の体に注がれるその視線は、まるで実体があるかのようだった。

建物を出るとすぐに、冷たい風が吹いてきた。

田口優里は思わず両腕を抱きしめた。

寒い。

気温が下がったのか?

10度もないように感じる。

彼女は薄着すぎた。

次の瞬間、肩に重みを感じ、懐かしい香りと温かさが彼女を包み込んだ。

振り返ると。