第212章 福の神

田口艶子が言った。「野井北尾は一度だまされたことがあるけど、二度目もだまされると思う?」

「千日泥棒をしても千日用心することはできないわ。野井北尾は付き合いがあれば、油断する時もあるはず……」

「田口艶子、」田口優里は彼女の言葉を遮った。「あなたがそんな考えを持っているなんて、とても異常だと思わない?」

田口艶子は一瞬固まった。

「事の真相は何なのか、あなたは心の中でよく分かっているはず。正直に言うと、あなたに傷跡が残ったのは自業自得よ。私は聖母じゃないわ。あなたが野井北尾を狙っているのに、私があなたの傷跡を消すのを手伝うなんてできない。」

「あなた……」

「これでおしまいよ。今後は用事がなければ連絡しないで。」田口優里は強調した。「あなたの家族のことには、私は一切関わりたくないの。」

言い終わると電話を切った。

少し気分が良くなっていたのに、田口艶子にこんなふうに邪魔されて、田口優里は思わず以前のあの嫌な出来事を思い出してしまった。

朝早く、野井北尾も電話で邪魔された。

澤田耀司からの電話だった。

「前回、和仁さんが呼んだあの男……」澤田耀司は彼に言った。「見つけたよ。」

野井北尾は彼を非難した。「こんなに時間がかかったのか?」

澤田耀司は言った。「家に少し用事があって、遅れたんだ。あの男はリゾートに一晩滞在して、女と楽しい時間を過ごしたらしい。」

「彼が言ったのか?」

「最初は言わなかった。」澤田耀司は言った。「少し手段を使って話させたんだ。それに、彼と楽しんだ女が誰か知ってる?」

野井北尾は興味を示さなかった。「薬物を使った件と関係あるのか?」

澤田耀司は言った。「たぶんね。」

「何も確かじゃないのに、なぜ俺に電話してきた?」

「俺はシャーロック・ホームズじゃないし、この件は警察に通報もできない。ただ調べたことを伝えるだけだよ。あとは分析してくれ。」

「言ってみろ。」

「あの男が入ったのは渡辺雪也の部屋だった……」

「渡辺雪也?」野井北尾は大いに驚いた。「彼女……本当に彼女なのか?」

「ああ、」澤田耀司は言った。「しかもあの男によると、渡辺雪也はかなり積極的だったらしい。意外だな。それに聞いた話では、渡辺雪也はお前のことが好きなんじゃなかったのか?」