墨都に戻ってから、妊婦検診のことは、すべて野井北尾が手配してくれた。
田口優里は検査の時に行くだけでよく、何も心配する必要はなかった。
野井北尾がそう言うので、彼女も疑わなかった。
同じ病院のスタッフということもあり、便宜を図ってもらえた。田口優里が行くと、看護師はナースステーションで直接採血してくれた。
漢方科に戻る時、田口優里は言った。「一言言ってくれれば、私一人で行けたのに。あなたは忙しいのに、わざわざ付き添ってくれて。」
「どうして一人で行かせられるか。」野井北尾は彼女をゆっくり支えながら歩いた。「仕事が君と比べられるか?」
田口優里は微笑んだ。
野井北尾は言った。「そういえば、今日武田佐理から電話があった。」
田口優里は言った。「報告しなくていいのよ。私には友達を作る権利があるし、あなたにもある。」
「報告じゃない。」野井北尾は言った。「彼女から電話があって、肺がんが見つかったって。」
田口優里は驚いた。「え?いつのこと?」
「たぶん今日だと思う。再検査を勧めておいた。」
田口優里は彼の淡々とした話し方を聞いて、思わず尋ねた。「あなた...彼女に会いに行かなかったの?」
野井北尾は言った。「僕は医者じゃないから、会っても意味がない。でも、もし本当に確定診断が出たら、優里ちゃん、彼女を診てあげてくれないか。」
田口優里はうなずいた。「もちろんいいわ。でも、前に会った時、彼女の顔色に問題があるようには見えなかったけど。」
漢方医は顔色を観察するのが得意で、望聞問切(観察・聴診・問診・脈診)を行い、病気によっては顔色や表情に現れることがある。
しかし、すべての病気が顔色に現れるとは限らない。
武田佐理は例外かもしれない。
野井北尾が去った後、田村若晴が漢方科にふらりとやってきた。
彼女は気になって仕方がなく、野井北尾が松下牧野と話し合ったのか、田口優里にどう伝えたのか知りたかった。
田口優里が興奮しすぎないか心配で、様子を見に来たのだ。
田口優里は資料を整理しながら彼女に言った。「武田佐理が健康診断で肺がんだって。」
田村若晴も驚いた。「肺がん?」
「まだ確定診断じゃないわ。」田口優里は言った。「健康診断で見つかっただけで、専門科で確定診断を受ける必要があるの。」