第101章 狂おしい情熱

奥田梨子と畑野志雄は朝日バーを出たが、すぐには帰らなかった。

彼女はボディーガードに木村楽人を先に家に送らせた。

黙って助手席に座った。

畑野志雄は運転席に座った。

彼は車を運転しながら、「梨ちゃん」と呼びかけた。

彼は声をかけた。

奥田梨子は窓の外を見つめながら、少し赤くなった瞳をまばたきした。

土田才戸のことを思い出すと、奥田梨子はあの夜の屈辱と、縁のなかった子供のことを思い出した。

実は彼女がずっと望んでいたのはとてもシンプルなことだった。

安定した家庭。

ただ、時には安定した家庭を持つことが実は難しいこともある。

「梨ちゃん、僕を見て」

彼は車を止め、墨のような瞳で奥田梨子を見つめた。

車の外は輝く街の灯り、車内は静かな二人。

奥田梨子のまつげが震え、顔を向けたが、視線は下を向いたままだった。