第120章 卵の中心が熟した

畑野志雄は電話を切った後、鈴村律から謝罪の電話がかかってきて、彼はキッチンに入った。

彼は彼女の後ろに立ち、彼女の腰を抱きながら、「鈴村律がさっき電話で謝ってきたよ」と言った。

畑野志雄は小さな鍋の中の卵を見て、眉を上げた。「梨ちゃん、さっきお腹いっぱいじゃなかった？」

二人はちょうど食事を済ませたところだった。

彼の大きな手が服の裾から彼女のお腹に触れた。「まだ空いてる？」

お腹に当てられた手のひらは温かかった。

「空いてないよ」奥田梨子は軽く咳をして、自分が少し馬鹿みたいだと感じた。

それでも彼女は続けて言った。「志雄、この水はね、最初は冷たくて、今は温かくて、そのうち熱くなって、そうすると卵の中心が熟すの」

奥田梨子は言い終わって少し恥ずかしくなった。

畑野志雄は意味不明な哲学的な話を聞いたような気がしたが、とても果断に、そして上手に褒めた。「梨ちゃん、すごいね、才女だね」

奥田梨子、「……」

つま先が恥ずかしさで縮みそうになった。

彼女は頭を下げて、「褒めてほしくて言ったんじゃないの。卵の中心が熟して、ゆで卵ができたって言いたかっただけ」

畑野志雄は困惑した顔をした。彼の知能指数はかなり高いが、この時は奥田梨子の意図がつかめなかった。

奥田梨子は顔に触れ、顔が熱くなっていた。

彼女は恥ずかしくて続けられなくなり、もういいやと思った。

本当は「温水で蛙を煮る」という言葉を使って、ゆで卵に置き換えて彼に告白するつもりだった。

奥田梨子は今は告白する気がなくなり、ただ責めるように言った。「畑野さん、あなた私に告白したことないよね？」

畑野志雄はその言葉を聞いて、鍋の中の卵を見て、そして奇妙な奥田梨子を見て、はっとした。

「梨ちゃんは僕に、君の心はもう僕によって煮られたって言いたいの？」

奥田梨子は瞬時に黙り込んだ。

申し訳ないが、畑野志雄はもう我慢できず、奥田梨子を抱きしめて大笑いした。

彼は奥田梨子と一緒にいると、毎日が楽しいことに気づいた。

畑野志雄は身をかがめて奥田梨子の耳を噛み、低い声で言った。「梨ちゃん、この水はね、最初は冷たくて、今は温かくて、そのうち熱くなって、そうすると卵の中心が熟すの。畑野志雄の心はもう奥田梨子によって温められて熟している」

「好きから愛へ」