授業中《じゅぎょうちゅう》、先生が説明している間、彼女が集中して何かを書いているのに気づいた。
その表情は真剣そのもので、まるで何かに夢中になっているようだった。もちろん、何も書かなくても、彼女は十分に幸せなのだろうけど。
昼休みになると、多くの女子が彼女の周りに集まり、一緒に昼食を食べようと熱心に誘っていた。
驚いたのは、彼女が人気者だったことではなく、その速さだった。まるで砂糖に群がるアリのように、一瞬で取り囲まれてしまったのだ。
――離れた方がいいかな?
そう思いながらも、彼女の邪魔をしたくなかった僕は、中庭へ降りるか、どこかの階段で一人で食べることにした。
なんとなく、光さんは僕と一緒に昼食をとりたくないのではないかと感じた。
もしかしたら、少し距離を置いた方がいいのかもしれない。
それに、僕には悩みを話せるような男友達もいなかった。
誰かに打ち明けたいと思っても、話せる相手がいないというのは、思った以上に苦しいものだ。
結局、校舎を見渡せる階段に座り、一人で弁当を広げた。
すると、突然光さんが隣に現れた。
怒っている様子ではなかったが、それでも僕は、川城さんとのことを説明する必要があると感じた。
彼女の正体には触れず、ただどういう関係なのかだけを伝えた。
僕には、唯一の友人を失いたくないという気持ちがあった。
だからこそ、こんなに気にしてしまうのかもしれない。
「昨日知り合ったばかりの子だよ。俺たちは何でもない、ただの友達だから……怒らないでくれ。」
彼女はクスッと笑った。まるで、心配が一気に吹き飛んだかのように。
その笑顔を見て、僕の胸の奥にあった不安も自然と軽くなっていった。
改めて彼女を見つめると、その可愛さに思わず見とれてしまった。
まるで今まで目隠しをされていたように、その魅力に気づけていなかった自分が不思議だった。
「心配しなくても大丈夫よ」
彼女はそう答えた。「別に怒ってたわけじゃない……まあ、ちょっとだけ悲しかったけど。私には話してくれなかったのに、その子には話してたから。」
僕は思わず顔をしかめた。まるで、自分がひどく子どもじみた行動をしていたかのように感じた。
「でも、説明してくれてありがとう」
その言葉に、少しだけ救われた気がした。
彼女の不機嫌の理由は、僕が想像していたものとは少し違っていた。
肩の荷が下りたような気分だった。
「よかった……」
僕はほっと息をついた。
「何がよかったの?」
彼女が優しく問いかけながら、少し身を寄せてきた。
顔が近づき、緊張した僕は、それでも正直に答えた。
「てっきり、嫉妬してるのかと思った。」
すると、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべて、僕の目をじっと見つめた。
「……もし、そうだったら?」
一瞬、沈黙が流れた。
心臓が《しんぞう》、一瞬止まった気がした。
しかし次の瞬間、光さんはクスッと笑い、小さく首を振った。
「ふふ、冗談《じょうだん》よ。」
その笑顔を見て、彼女が本当に冗談を言っているのだとわかった。
まるで、最後の最後まで我慢していたけれど、もう堪えられなかった――そんな笑い方だった。
――けれど、それが完全な冗談とは思えなかった。
……それは、ただの思い過ごしだろうか?
そのとき、階段の下から突然物音がした。
まるで、誰かが僕たちの会話を盗み聞きしていたかのように。
結局、光さんは僕の隣に座り、一緒に昼食をとることにした。
一方で、白鳥さんは階段の入り口に立っており、手には一枚の紙を持っていた。
そこにはいくつかのフレーズが書かれており、一部はマーカーで消されていた。
しかし、白鳥さんの心の中では、まったく逆のことが起こっていた。
実際には、誰かが学校を案内してくれることを《望》《のぞ》んでいたのだ。
けれど、誰も声をかけてくれないので、自分から《動》《うご》くしかなかった。
とはいえ、どこから回ればいいのか分からなかった。
そんな時、彼女は三人組の生徒を見つけ、思い切って声をかけた。
「すみません、私は《転校生》《てんこうせい》なのですが…学校を案内してもらえませんか?」
彼女は少し緊張しながら尋ねた。
三人の女子生徒は顔を見合わせ、優しく微笑んだ。
「もちろん!」
こうして、彼女たちは校庭、花壇、体育館など、学校のさまざまな場所を案内してくれた。
昼休みが終わる前に、白鳥さんはにっこりと笑い、感謝の言葉を伝えた。
「案内してくれて、本当にありがとう。」
その瞬間、三人の女子生徒は、彼女の《輝》《かがや》くような笑顔にわずかに頬を《赤》《あか》らめた。
教室に戻ると、生徒たちはまだ同じ場所に集まっていた。
どうやら何か話し合っていたようだが、白鳥さんが現れると、空気が一変して静かになった。
その後、授業はいつも通り進んだ。
昼食の後、光さんと私は一緒に戻った。
まだ白鳥さんに昼休みの出来事を話していなかったが、遅かれ早かれ伝えなければならないだろう。
午後三時になり、私は光さんと一緒に部活へ向かうことにした。
席を立ち、教室を出ようとすると、不意に声をかけられた。
光さんは少し離れたところで私を見て、微笑んでいた。
まるで「何をしているの?早く行こうよ」と言いたげだった。
だが、呼び止めた声は白鳥さんのものではなかった。
もっと言えば、彼女は今一人でいるかもしれない…。
ここで彼女を誘ったら、一緒に来るかもしれないし、もしかすると部活の新しいメンバーになってくれるかもしれない。
それなら、部活の存続も少しは《望》《のぞ》めるかもしれない。
いい考えだ。
私は心の中でそう思いながら、微笑んだ。
「白鳥さん、僕たちの部活に入ってみない?」
彼女は一瞬、戸惑った様子で私を見つめた後、尋ねた。
「どんな部活なの?」
「えっと…読書部だよ。」
私は少しごまかしながら答えた。
白鳥さんはしばらく沈黙したが、その後、立ち上がり、ランドセルを手に取り、私の隣に並んだ。
「わかった、行ってみる。」
光さんは笑顔を見せた。
きっと、新しい部員が増えることが嬉しかったのだろう。
そして、私も嬉しかった。
こうして、二人は出会ったのだった。
クラブの前のドアに到着した後、川城さんが《好奇心》《こうきしん》旺盛に見ているのに気づいた。
一方、私はドアノブを回し、ドアが開くと、川城さんは棚に並んだ本を見て驚いた。だが、その近くに一人の人物がいた。
その人物は光舞さんに似ている女の子。そう、その女の子は彼女の可愛い妹だった。