第011章:結局は夫婦の縁

久保清森は彼女の目の中の探りを見なかったふりをして、続けて尋ねた。「一嘉は君に無理なことを言わなかった?」

佐々木一嘉は以前、久保清森の中学校の同級生だった。普段は控えめな清森が一嘉のインタビューを受けたのも、二人が旧知の仲だったからだ。

「ないわ」数秒間の間を置いて、彼女は尋ねた。「あなたさっき、バックステージで全部見てたんじゃないの?」

言外の意味は…そんなくだらない質問をなぜするの?ということだった。

車内は再び沈黙に包まれた。古川真雪は自分が清森の珍しく積極的な話題作りの熱意を消してしまったことを知っていた。彼女は無関心そうに口をすぼめ、膝の上に置いていたスマホを再び手に取ってSNSを見続けた。

離婚前なら、二人の間の雰囲気が気まずくなったとき、あるいは話題がどちらかの理由で途切れたとき、真雪はいつも積極的に話題を変えていたものだ。

しかし今は、彼女は静かにスマホを操作し続けていた。

清森は改めて感じずにはいられなかった…離婚前と離婚後の違いは大きいな!

「さっきの君のパフォーマンスは良かったよ」

車内に再び響いた磁性のある男性の声に、スマホを見ていた真雪はまた一瞬固まった。

清森が彼女を褒めているの?これは…ちょっと普通じゃないわね!

前回、彼女が清森と一緒にインタビューを受けたとき、彼女は彼に恥をかかせないように、できる限り上品で優雅に振る舞おうとした。結局、彼の微笑み一つさえ得られなかったのに。

それなのに今回、彼女が番組で何度か意図的に清森をからかったのに、彼は彼女のパフォーマンスが良かったと褒めるなんて?

「清森」

「ん?」

「あなた…私に手伝ってほしいことがあるの?」

清森は軽く眉を上げて尋ねた。「どうしてそう思うの?」

「今日のあなた、ちょっと変よ」

「……!」

清森の眉間に軽い諦めの色が漂うのを見て、真雪は自分が彼の心中を言い当てたと思い、顔の笑みを引き締め、真剣な表情で運転中の清森を見つめた。

彼女はゆっくりと口を開いた。「私の銀行口座には、あなたが唐田秘書に振り込ませた2億円の離婚慰謝料しか残ってないけど…いや、あなたが私からお金を借りるほど落ちぶれるわけないわね」

彼女が清森に頼まれそうなことで唯一思いつくのは、お金を借りることだった。でも清森はあんなにお金持ちなのに、なぜ彼女からお金を借りる必要があるだろうか?

彼女が勝手に彼の目的を推測しているのを見て、清森は何とも言えない諦めを感じた。彼は言った。「考えすぎだよ」

「そうよね。じゃあ、結局私に何を手伝ってほしいの?」

清森の珍しい異変が真雪の好奇心をそそった。彼女は心の底から、清森が自分に何か頼みたいことがあると信じていたので、彼が一体どんな難題に直面しているのかを知りたくてたまらなかった。

車内は再び沈黙に包まれた。真雪は清森が薄い唇を引き締めて、なかなか答えようとしないのを見て、彼が何か言いにくいことを抱えていると思い、再び赤い唇を開き、寛大な口調で言った。「言ってみて。夫婦だったんだし、できることなら手伝うわよ」

真雪の反応に清森は笑うべきか泣くべきか分からなくなった。心の中で突然、彼女をからかいたいという悪戯心が湧き上がった。

彼の視線は前方の道路に注がれ、黒い瞳には微かな波紋が広がっていた。その波紋の奥には、まるで輝かしい笑みが咲いているかのようだった。

彼は口を開いた。「母さんはずっと嫁が欲しいと思っていて、だから…」君は母さんに対応して、私の妻になってくれないか?

清森の言葉はまだ終わっていなかったが、真雪に遮られた。彼女は一目で分かったという顔で、「だからあなたは私にお母さんの前で、夏目宣予のいいところを言ってほしいの?」

彼女の推測に、まだ言葉を言い終えていなかった清森はハッとした。真雪がまさか宣予のことを連想するとは全く予想していなかった。

彼が否定する前に、真雪が真剣な口調で言うのが聞こえた。「それは手伝えないわ。だって私は良心に背いて夏目宣予を褒めることなんてできないもの」