先ほどのやり取りで、二人は久保知昊に字画を買ってあげる件をすっかり忘れていた。
久保清森が和紙縁を出て、古川真雪に追いついた時、ちょうど二人はある装飾品店の前を通りかかっていた。
その装飾品店が風情があると見て取った清森は、足を止めて横を指さした。
「中に入って見てみようか」
真雪は足を止め、首を傾げて隣にある藤華楼という名の古典的な装飾品店を見た。
「うん」少し間を置いて、彼女は店内に向かいながら冗談めかして言った。「まさか、あなたみたいな男性がこういうものに興味があるなんて思わなかったわ。前はこんな趣味があるなんて知らなかったけど」
清森は「……!」
彼の眉間に漂う無力感を見て取った真雪は心の中でバランスを取り戻した。先ほど店主たちにからかわれた時、この男は面白がっていたような顔をしていて、本当に白目を向けたくなったのだ。
二人が店内に入ると、すぐに店員が迎えに来た。「藤華楼へようこそ。私は田中欣幸と申します。何かお手伝いが必要でしたら、どうぞお気軽にお申し付けください。ごゆっくりお買い物をお楽しみください」
真雪は欣幸にお礼を言い、隣にいる清森に冗談めかした口調で尋ねた。「久保会長、今日はどんな装飾品をお買い求めですか?」
清森は目を伏せ、真雪の桃の花のような目に広がる悪戯っぽい笑みを見て、この娘が自分をからかっていることを悟った。
「かんざしだ」
真雪は思わず笑い、さらに冗談を続けた。「それなら、あなたのかんざしに合わせるためのかつらも一緒に買いますか?」
清森はアンティークな木製のショーケースに並べられた装飾品を鑑賞しながら、何気なく答えた。「それは必要ないな」
彼がとても真剣に見ているのを見て、真雪はまた我慢できずにからかった。「どうしたの?夏目宣予に贈る愛の証にでもするつもり?」
清森の足が急に止まった。彼はゆっくりと横を向き、真雪に向ける視線はやや冷たかった。
一瞥しただけで、彼は視線を戻し、手を伸ばしてショーケースの上の桃の花の簪を取った。