第035章:久保さんの女運が良い

古川真雪が眉をひそめて、バーカウンターの端にある個室の入り口を見つめているのを見て、中島黙は軽く眉を上げ、言葉を落としながら同じように頭を傾け、真雪の視線に沿って個室の入り口を見た。

次の瞬間、すらりとした背の高い人影が個室から出てきて、不意に二人の目に飛び込んできた。

久保清森の秘書である唐田浩良がレストランに現れたのを見たとき、真雪は清森が個室にいることを察していた。

ただ彼女が予想していなかったのは、清森の後ろについて出てきたのが夏目宣予だったことだ。

中島黙は二人が前後して個室から出てくるのを見て、唇の端に不真面目な笑みを浮かべた。「密会の場所選びが上手いね」

真雪は視線を戻し、陶器の酒器を手に取って自分の杯に少し焼酎を注ぎ、同意するように頷いた。「本当にね」

さらりとした三文字だが、彼女の態度を測りかねるものだった。

レストランはそれほど広くなく、清森が出ていく際にはバーカウンターを通るため、自然とカウンターに座っている真雪に気づいた。

彼の顔に素早く驚きの色が走り、それから小声で唐田に宣予と彼女のアシスタントを先に送るよう指示した。

宣予は彼の言葉を聞いて、明らかに不満そうな表情を見せたが、清森は彼女が反論する機会を与えず、足を踏み出して真雪の隣の席に座った。

「真雪、どうしてここに?」

真雪は焼酎を一口飲み、横目で清森を見て答えた。「先輩の歓迎会をしているの」そう言いながら、隣に座っている中島黙を指さした。

清森はようやく真雪の隣に男性が座っていることに気づき、黙を見上げた。黙は彼に向かって非常に明るい笑顔を見せたが、その笑顔は心からのものではなく、注意深く見れば彼の目に一瞬だけ軽蔑の色が浮かんでいるのがわかるほどだった。

「久保さん、また会いましたね」

そう言った後、彼は不承不承に唐田について去っていく宣予の姿を見て、からかうように言った。「久保さんはモテますね」

最初に黙を見たとき、清森は見覚えがあるような気がしただけだったが、彼が話し始めて初めて、どこで黙に会ったのか思い出した。

「久しぶりだね」

簡単に挨拶を交わしただけで、黙の皮肉は完全に無視した。

「ここ数日連絡が取れなかったけど、話したいことがあるんだ。時間があったら電話してくれないか」