第034章:私の後輩と比べるとまだまだ劣るね

「でも、当時の決断を後悔してはいないわ。もう一度同じ状況になっても、きっと同じ選択をすると思う」

古川真雪は足を止め、中島黙の方に顔を向けた。二人の視線が交わった瞬間、彼女の整った眉目に優しい弧を描く笑みが浮かんだ。

「先輩、清森はあまりにも素晴らしい人だったから、離婚しても彼を責めることができないの」

久保清森は彼女の尽くしてきた気持ちに無関心で、彼女の溢れる愛情を見て見ぬふりをしていた。それでも、真雪は清森を責めることができなかった。

父親の反対を押し切って清森と結婚すると決めたのは彼女自身だった。結婚後に清森の心を掴めると思い込んでいたのも彼女だった。しかし現実は彼女に厳しい教訓を与えた。

過去の失敗した結婚は、彼女にとって一つの授業だった。喜びは得られなかったかもしれないが、成長する経験を得ることができた。

黙は手を伸ばし、隣に立つ真雪を抱き寄せ、とても温かい抱擁を与えた。

「バカな子だな、生きていて楽しいことが一番大事だよ。過去は過去として割り切って、これからは素敵な人生を送ればいい」

真雪は黙の胸に寄り添い、唇に浅い笑みを浮かべた。「そうね、これからは先輩が私を守ってくれるんでしょ?」

黙は真雪から離れ、まるで親友のように彼女の肩を抱き、レストランへと歩き続けた。

口の中でつぶやきながら:「ふん、やっぱり当時から私に取り入ろうとしていたんだな」

「先輩、本当に私があなたに取り入ったんですか?あなたが厚かましく私にまとわりついていたんじゃなくて?」

黙は厚かましく笑って言った。「あまり覚えていないなぁ」

二人がレストランの入り口に着くと、黙はようやく真雪の肩から手を離した。彼は目を上げてレストランの入り口に刻まれた「宗」の文字を見て、軽く笑いながら感慨深げに言った。「どうやらこの数年で変わらなかったのは、君の音楽の趣味だけじゃなく、このレストランもだね」

「もう冗談はいいわよ」真雪は目を回し、先に店内に足を踏み入れた。

黙が言った通り、何年もこのレストランに来ていなかったが、内装は昔とあまり変わっていなかった。

二人はカウンター席に案内された。カウンターの向こう側はオープンキッチンになっており、シェフたちが忙しそうに寿司を握ったり、ラーメンを茹でたりしていた。