藤野旭は料理人であるため、食べ物に対する要求は常に高かった。二人が乗っていたのはファーストクラスだったが、提供される食事は彼の口に合わなかった。
昼食後ずっと何も食べていなかったので、今ではお腹がぺこぺこだった。席に着くとすぐに、彼はメニューを開き、テーブルの上のタブレットで素早く注文した。
久保清森の味の好みはいつも淡白で、辛い四川料理は好まなかったため、シンプルに味の薄い料理を数品選んだだけだった。
注文を終えると、藤野はいつものように古川真雪がテーブルに置いていた携帯電話を手に取り、彼女の前に差し出した。「ロック解除して」
真雪は親指を携帯のホームボタンに置き、一秒もしないうちに、携帯は自動的にロック解除され、ホーム画面が表示された。
清森は二人のやりとりを黙って見ていた。彼は落ち着いてテーブルの上のティーポットを取り、まず藤野のカップにお茶を注ぎ、次に真雪のカップにも熱いお茶を注いだ。
彼は穏やかな目を上げて真雪を見つめ、軽く口角を上げながら薄い唇を開いた。「お茶を飲んで体を温めて」
「うん」真雪はうなずき、テーブルの上のティーカップに手を伸ばし、軽く息を吹きかけると、カップから白い湯気がゆっくりと立ち上った。
清森が顔を上げると、真雪の艶やかな桃の花のような目にも薄い霧がかかったように見え、その輪郭がぼんやりとしていた。
彼女は優雅な動きでお茶を一口すすった。温度がちょうど良かったのか、お茶の味わいが香り高く心地よかったのか、彼女の赤い唇の端にゆっくりと満足げな笑みが浮かんだ。
わずかに赤みを帯びた顔に浮かぶ温かな笑顔は、湖面を優しく照らす柔らかな日差しのようで、きらめく波紋を広げていた。
目の前の優しく魅力的な真雪を見つめ、清森はしばし呆然としていた。
初めて真雪と知り合ったとき、彼女はまだ16歳で、彼もわずか18歳だった。
今では11年が経ち、彼女は27歳になり、彼も29歳になっていた。
この11年の間に、多くの人が彼の人生に出入りしたが、彼女だけは...ずっとそこにいた。
この11年間、彼らはお互いの成長を見守ってきた。
この感覚は、本当に素晴らしかった。
「中国旅行は楽しかった?」
「うん、良かったよ。しばらく行ってなかったから懐かしかった」