彼は藤野旭を通り過ぎて古川真雪の前に立ち、友好的な笑みを浮かべながら尋ねた。「古川様、旅行は楽しめましたか?」
藤野旭は彼の背中に向かって口をとがらせ、仕方なく自分でスーツケースと手に抱えていたシャンパンローズを後部トランクに入れた。
真雪は二人の間に漂う微かな火薬の匂いに気づかず、唐田浩良に微笑みながら答えた。「まあまあです」
「それは良かった。どうぞ、お乗りください」そう言いながら、彼は真雪のために後部座席のドアを開けた。
ちょうどトランクを閉めた旭はその様子を見て、目元に微かな邪悪な笑みを浮かべた。彼は落ち着き払って車体を回り込み、後部座席の反対側に座った。
真雪の隣に座ろうと足を上げて車体を回ろうとしていた久保清森は、その光景を見て思わず眉をひそめ、車越しにドアを開けたばかりでまだ車内に座っていない旭を見つめた。
旭は清森の深い視線に気づき、非常に友好的に清森に向かって口角を曲げ、微笑みを浮かべた。そして身をかがめて車内に座り、ドアを閉めた。
唐田浩良はこっそりと横目で表情が少し険しくなった清森を見て、小声で促した。「社長、お乗りください。外は寒いですよ」
言葉が落ちると同時に、助手席のドアを開け、清森を招いた。
清森は黙ったまま足を上げて助手席の前まで歩き、身をかがめて車内に座った。
真雪が予約したレストランは四川料理店で、市の中心部にある叢雲ショッピングセンター内にあった。
数時間のフライトで真雪と旭の二人がやや疲れていたせいか、道中は誰も口を開かず、四人はただ静かにラジオを聴いていた。雰囲気はかなり和やかだった。
車は40分走ってようやくショッピングセンターの入り口に到着した。三人は車を降りてショッピングセンターに入ると、行き交う従業員たちは清森の訪問を見て、軽く腰を曲げ、敬意を表して挨拶した。
「真雪、君は本当に気が利くね。日本に着いたばかりなのに、僕の大好きな四川料理を食べに連れてきてくれるなんて」
三人がエレベーターの前で待っている時、旭は肘で隣にいる真雪を軽く突き、わざとらしく親密な様子で彼女にウインクした。
真雪は彼に向かって口角を少し曲げただけで、黙って彼の見栄を張る様子を見ていた……搭乗前に何度も「着いたらすぐに好きな四川料理を食べに連れて行ってほしい」と要求していたのは誰だったのだろう。